自転車
お引っ越しをした。
義父であるダイキさんが、孫のサキちゃんや新婚である、わたし達の為に建ててくれな家なんだけど……一言で言うと、うん、なにこれ? っていうような豪邸だったよ。
まだ新居にやってきて一週間しか経ってないんだけど、未だに何部屋あるのかも数えてすらいない。
とりあえず庭が広い。
花園には白の椅子が4脚に同色の丸テーブル。
お茶会だってできちゃう。
気分を変えたい時には木造の東屋へ。
屋根があるから雨が降ってきても大丈夫。
娘と遊びたいなら、大阪にあったデパートの屋上遊園地のような場所で過ごしましょう。
ほら汽車にゴーカート、UFOキャッチャーにスベリ台、それとブランコだってあるよ!
疲れたら家に戻って、洋室、和室、子供部屋、図書室、茶室、リビング、寝室(今のところここまで確認)と好き所でゆったり過ごしましょう。
それに露天風呂を模した岩風呂や檜風呂にだって入れちゃう!
コの字になっている広く大きなキッチンで料理も楽々。
ゆったりしたソファー席か別部屋にあるテーブル席には大画面のモニターが置かれているので、映画にテレビ番組、それとネット配信まで見れちゃう。
さあ、のんびり過ごしましょう。
「って、広すぎるわ!」
お引越しして一週間、ようやく現実に戻ってきた、わたしの言葉がこれである。
新居にやって来て普通に暮らしていたけど、ついさっきまでフワフワした気分が離れていなかった。
サキちゃんと最初に出会った六畳一間のアパートから、こんな豪邸にまで登りつめるなんて……これ、どんなシンデレラストーリーですか?
旦那のハルも「維持費が……」とか言って頭を
抱えていたし、ダイキさん、本気出しすぎだよ。
せめて、お義母さんであるヒナタさんには、夫の暴走を止めてもらいたかったものだ。
(これは子供産んだら、わたしも仕事復帰した方がいいかな?)
しかしこうなってくると、お金はハルと一緒に働いて稼げばいいとしても、今度はサキちゃんや産まれてくる子供に贅沢ばかりしないよう覚えさせる教育が必要かもしれない。
それとも、もう少し成長したら将来を見据えて私立の小学校に入学させたりとかした方がいいのだろうか? いや普通の暮らしを知るなら公立なのかな? うーん、わからない。
(ハルが仕事から帰ってきたら相談してみよ)
サキちゃんと出会って一年と少し。
つい最近誕生日を迎えた彼女も、今や立派な4歳児となった。
そんなイヤイヤ期を直ぐに終えたサキちゃんが最近は何にハマっているのかというと、汽車やゴーカートでもなく、自力で漕ぐ自転車である。
白いハンドルにピンクの車体、両色の補助輪付き。
ソーちゃんとお茶をしている庭園で、わたし達の近くを、ガラガラと何周もしている。
よほど楽しいのか、ずっと笑顔でぐるぐる、ぐるぐると。
サキちゃんは乗り物が苦手だったから、三輪車を漕いだことがなく、飛び級で自転車を経験することとなった。
「ママ〜、みちぇみちぇ〜?」
「見てるよー」
「サキ、はやい?」
「うん」
「うんちぇんちょうず?」
「運転? 上手だよ」
「ありあと!(ありがと!)」
最初は一人で漕がせることに不安もあったが、不要な心配だったみたいだ。
サキちゃんは自転車という乗り物を心から楽しんでいることが、よくわかる笑顔を見せてくれた。
ガラガラ、ぐるぐる、ガラガラ、ぐるぐる。
同じ所を何周もして、目が回らないのだろうか?
わたしと離れようとしないところもかわいいが、それはそれで将来、親離れできるのかが心配にもなる。
それと、もう一つサキちゃんへの懸念があった。
それは、言葉の発音が中々安定してこないということだ。
女神であるソーちゃんに聞けば、何かわかるのかもしれないが、何でもかんでも頼るのもよくない気がする。
わたしとハルもスミレさん達に対して悪ノリすることはあるが、基本、人間のことは人間が解決すべき問題だろう。
そんなことを考えていたら、何故かソーちゃんがフッと笑った気がしたので確認してみると、特に表情を変えていたりすることはなく、無言で紅茶を啜っていた。
ほんと、女神というのは、何を考えているのか理解できない。
それも創造神となれば当然なのかもしれないけど。
「ソーちゃん、そろそろ家に戻ろうか?」
「そうね。もう夕方だし」
「サキちゃーん、帰るよー!」
「あーい」
わたしとソーちゃんは歩きで、サキちゃんは自転車で家まで戻る。
(こんな幸せな日が続けばいいなあ)
後日、サキちゃんを病院に連れて行ったところ『構音障害』と診断された。
世の中が暗すぎて、ほのぼのが書けません。
こういう暗い感情って伝わると思うので『TS転生したけど、子供いた』に関しては暫く活動休止することにします。
まあ作者の気分なので一週間も経たずに復活という可能性もありますが。
いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。




