夫婦協力
スミレさんに車を出してもらい、ハルと後部座席に座り、練馬から新宿方面へと移動する。
「なんで、わたしが2人のデートの為に運転手なんか……」
「……ヴィオレータ」
「はい! ハル様、すみません! すみません!」
うちの旦那様に名前呼ばれただけで謝罪するとか、一体この女神は、どんな弱みを握られたんだろう?
「……ねえハル、聞くのが怖いんだけど、スミレさんに何を言ったの?」
「うん? 別になんもないぞ?」
「絶対嘘だ!」
凄くいい笑顔で、わたしの言葉を躱したハルは話を続ける気はなかったのか「そんなことより新宿に着いたら、どこ行きたい?」と聞いてきた。
まるで、これ以上、その件を追及するのは許さないと言わんばかりの態度である。
(こうなったら意地でも話さないだろうな)
ハルの頑固さを知っているので、わたしも話を追及するのは諦め、聞かれた質問に答えることにした。
「服とかアクセを見たいかな? あ、でも新宿行く前に新大久保にも寄りたい。サキちゃんの日に作る料理のレパートリーを増やしておきたいんだよね」
「ああ、韓国料理か」
「だけって訳じゃないけどね。新大久保にはタイやベトナム、それにネパールなんかの飲食店もあるしさ。外食が苦手なハルには悪いけど……」
「いや、構わない。家でのレパートリーが増えてくれる分には、俺だって嬉しいからな」
「うん、ありがとう」
「じゃあヴィオレータ、新大久保の近くで車を停めてくれ」
「へいへい」
弱冠不貞腐れ気味なスミレさんの運転で新大久保まで行き、空いていたコインパーキングに車を停める。
車内から出て歩道を歩き、韓国コスメやK−POPアイドルのグッズなどが売られているコリアンタウンと呼ばれる街を見て回った。
「あんまり来たことなかったけど、大分多国籍な街なんだな」
「うん。日本にいながら韓国旅行気分になれるって言われてるくらいだしね。まあ、わたしもサキちゃんが辛いのを大好物じゃなかったら、そこまで詳しくならなかったと思うよ」
「おお、このホットクとかいうの美味しいですね! 最初はミカさん夫妻に付いて来るのも面倒でしたが、こういう食べ物があるなら悪くないかもしれません」
「それはよかった。でも夜はナンパとか多いから、あまり1人で来ちゃダメだよ?」
「むしゃ……もぐもぐ……」
ホットクというのはシナモン入りの黒砂糖をパン生地で焼いたスイーツだが(チョコ、チーズ、ベーコンなどもあり、形は日本のおやきに近い)スミレさんは人の話も耳に入らない程、この食べ物に夢中になっていた。
(このダ女神は……)
人間以上の存在を心配するのもどうかという話ではあるが、仮にも女性なのだから、人の注意には素直に耳を傾けて欲しいものだ。
「お、このお店美味しそう。ハル、入ってもいい?」
「ああ」
コリアンタウンの中にあった一つの飲食店が目に入り、その店のメニューが気になった、わたしはハルとスミレさんを連れて店内へと向かう。
『いらっしゃいませ』
店員さんに案内されて席へ座り、食べてみたい料理を幾つか頼んだ。
「うん、美味しい」
「そうか」
「おお! 美味しいですね!」
ハルは他人の作った物が好きではないので、わたしとスミレさんの2人だけで料理を口にしていたが、何故か満足気だった。
きっと、わたしが喜んでいること自体が嬉しいのだろう。
「よし、じゃあ行こうか?」
「え? ミカさん、もう出るんですか? まだ少ししか食べてませんよ?」
「いや、夕食はサキちゃん達と食べるし」
「そんな! 残すなんて勿体ないですよ!」
「そうだね。だから後は頼むよスミレさん」
「よろしくな、ヴィオレータ」
「……わ、わたしに全部食べろと? どう見ても3〜4人前はあるんですが……」
「「よろしく」」
ソーちゃんに聞いたことだけど、女神というのは体内で摂取した物を無くすことができるらしい。
その事実を知っていなければ、こんな無謀な頼み方を、わたしだってしなかっただろう。
なので、安心して後を任せることができるのだ。
「ミカさん、もしかして創造神様を基準にしてませんか!? あの人の場合は生み出すんです! つまり料理を口にしていなかった状態を創っているんですよ! そんな芸当、普通の女神にできる訳ないじゃないですか!?」
会計を終わらせて、お店から出る時にスミレさんの声が後ろからしてきたけど、わたしには聞こえなかった。そう、何も聞こえなかったのだ。
「じゃあヴィオレータは放っておいて、俺達は新宿に向かうか」
「うん」
ハルと差し出された手を掴み、そのまま繋いで歩きながら新宿へと向かう。
「あのぬいぐるみ、サキちゃん好きそうだね」
「ウサギか? まあまあ大きいな」
通行中に見つけたゲームセンターを覗き込んでみると、UFOキャッチャーの景品にピンク、白、茶色のぬいぐるみが置かれていた。
「よし、せっかくだし取るか!」
「お、ハルはUFOキャッチャー得意なの?」
「どうかな? わからない」
「そっか、がんばって!」
ハルは機械に100円玉を2枚入れ、ボタンを押してアームを動かす。
だけど、景品を掴むことはできなかった。
「ああ〜。残念だったね」
「くそっ、もう1回だ」
「ダメかあ〜」
「もう1回、もう1回だ。次こそは…、」
景品が取れなくて熱くなったハルは、次々に100円玉を投入しては失っていき、途中からは一度で3回プレイができる500円玉に変更していた。
(ハルにも苦手なことってあったんだね。それがUFOキャッチャーっいうのが意外だったけど)
「うーん、ダメだな。どうすれば取れるのかは頭の中で計算できているんだが、アームが思った通りのところで止まってくれない。こういう感覚的なのが俺は苦手なんだよ」
「へー、そっか」
「おい、随分と軽い返事だな。このままじゃ、かわいい娘に土産を持って帰れないっていうのに」
「いや、解決できるなって思ったから」
「?」
わたしの返答にハルが首を傾げて不思議そうにしていたけど、なんのことはない。
2人で協力すれば解決できる道が見つかったからである。
「じゃあハル、どうやって取ればいいのか教えてくれる?」
「……あ、ああ……まずはこっちにこういって、それから……って、してやれば3回で取れる」
「わかった!」
なるほど、ハルは200円でも試してたけど、本当はアームを3回は動かさきゃ景品を取るのは無理って理解してたんだ。
じゃあ、最初のは本気で遊んでたんだね。
「よっと」
わたしはアームを動かし、ハルに指示された通りに、人形の位置をずらす。
「おお、俺が教えた通りの動きだ」
そう、わたしは感覚派なのだ。
アームなど思った通りの場所に動かせる。
だが、計算ができない。
なので、1人じゃ景品が取れないのである。
「で、ここだよね?」
「そうそう」
ぬいぐるみの位置を景品を落とす部分まで近付けた後、最後はウサギの頭を掴んで落っことした。
「取れたー!」
「ミカ、よくやった!」
手に入れたのはウサギのぬいぐるみ。
サキちゃんの好きなピンク色だ。
ハルに両手を広げられたので、わたしも自然と胸元に飛び込む。
お互いに喜びながら抱きしめ合っていると、近くにいた、お客さんや店員さん達にクスクスと笑われてしまった。
「ハル、で、出ようか?」
「そ、そうだな」
わたしとハルは急に恥ずかしくなり、夫婦協力して手に入れたぬいぐるみを取り出し口から引っ張り出すと、そのまま早足で店を後にした。
でも、わたし達は苦手な部分を補い合うことができると知った。
もしかしてノガミ夫婦の相性は抜群に良いのではないだろうか?
「なんだ? ニヤニヤして」
「ふふ、なんでもないよ〜だ」
そういえば最近はちょこちょこツイッターやってます。まあ大分前からアカウントはあったのですが、特に使用はしていませんでした。
最近は更新情報載せたり適当な呟きしてるだけなのですが、一応報告しておきます(別にフォローしなくても大丈夫です)
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