土下座
なんというか、只今、野上家のリビングでは現在の状況は人間として非常に不味いんじゃないかな? という状態に陥っている。
うん、わたしとハルがソファーに座り、目の前の床上にはヴィオレータ様?(スミレさん)と、創造神様の女神2人が土下座をするという光景が……いや、これ以上は考えるのを止めて置こう。
なんか頭痛くなりそうだし。
「えーと、ヴィオレータ様?」
「あ、スミレで大丈夫ですよ。今更ミカさんに敬称付きでよばれたら寒気がするっていうか、なんていうか……」
ほほう。
一応女神様らしいから敬った態度の方がいいのかな? なんて考えたのに、そっちがそういう感じなら、わたしも引き続き前と同じ呼び方で接しさせてもらおう。
「なるほど。じゃあ残念秘書さんが言うには、隣にいる方が創造神様だけど、あのお爺ちゃん神様でもあると?」
「ちょっと!? 呼び方が一層酷くなってませんか!?……まあそうですね。全くもって、その通りです」
じゃあ人間社会で言うところ、創造神様ってスミレさん(ヴィオレータ←もう呼びすて)の上司だよね? そんなお偉いさんの頭を引っ掴んで土下座させてるけど、これは問題ないんだろうか?
「あ、創造神様のことは気にしないでください。取り敢えず最初の方から説明させてもらいますと……」
取り敢えず頭を上げてもらって(正座中ではある)スミレさんに昔に天界であったアレやコレ、わたし達の性別が入れ替わった理由、3人(柱)の神様に行った処罰などを聞いた。
途中で創造神様が、お爺ちゃん神様に姿を変えた時は少し驚いたが、それ以上に怖かったのは「天界から追放された男神達だけど、こないだはアリンコに生まれ変わって、人間に一瞬で踏み潰されてたわよ。映像出せるけど、見る〜?」とか笑顔で言われたところだろう。
「結構です」と丁重にお断りを入れたけど、やっぱり人間とは価値観が違うのかもしれない。
何が悲しくて、会ったこともない元男神達が死んでる場面を見なきゃいけないのだろうか?
「で、まあ本題は此処からでして……ミカさんとハル君の結婚式に、この創造神様が来てたじゃないですか?」
「うん。やっぱり同じ人だったんだね」
というか、アホ呼ばわりされてるけど、創造神様的にはそれでいいんだろうか? もしかして、スミレさんも上司には苦労してるタイプなのかもしれない。
あれ? それって人間社会だと、わたしも入るんじゃ? うん、ここも深くは掘り下げないでおこう。
「えっと、それでですね……ミカさん、その時に何か飲まされませんでした?」
「う〜ん、お酒くらいしか手渡された覚えがないけど?」
「それです! ああ〜、やっぱり〜。まだ確実じゃないと思ってたけど、さっき見たら新たな命の種が芽吹いてたし、絶対それが原因だー」
「ちょっと待って。結局、どういうことなの?」
「……創造神様というのは、その名の通り新たな命を作り出すとか、生み出すというのが得意な方でして……つまりですね…端的に言うと、あのお酒の中に祝福が込められていたんです。まあミカさんが飲んだ一杯分にだけですけど」
「わたしが妊娠したのは、それが原因ってこと?」
「……はい」
「そっか。別に子供を望んでなかった訳でもないし、神様から授かったのなら、それはそれで有り難いことなんじゃないの?」
わたしの言葉に今まで黙っていた創造神様が、得意気な顔になり喋り出した。
「ふふん、ヴィオレータ。だから大丈夫だって言ったじゃない? あなたは心配しすぎなのよ」
「黙っててください! ただでさえ天界の神達はミカさんやハル君達に迷惑を掛け続けてきたんですよ!? だから、こういうのは2人に了解を取ってから進めようと、わたしは考えていたのに、あんたが勝手に暴走するからー!」
「だって、ちょっと未来を覗いて見たら、お互いサキちゃんに遠慮して子供作ってなかったんだもん。でも人間って、恋愛して赤ちゃん産んで育てながら成長していく生き物じゃない? 寧ろ、授けたわたしに感謝して欲しいくらいよ」
「このアホ神ー!」
「なによ、やるっていうの?」
なんか殴り合いが始まってしまった。
凄いのが睡眠中のサキちゃんに気を使っているのか、音が全くしていなかった。
さっきの会話や怒鳴り声も、この部屋にいる人間と神にしか聞こえていないっぽい。
わたしは女神って器用な能力があるんだなあと、2人の殴り合いに決着が付くまで眺めていた。
因みに後から聞いた話だが、ハルはスミレさんの正体がヴィオレータということには気付いていたらしい。
なんでも、髪や瞳の色は違えど顔は天界で会った時と瓜二つだし、何より何処の国の人間ともネイティブな発音で会話していたので違和感があったそうだ。
(そういえば、今日は海外出店の打ち合わせでハルは休日出勤だったんだよね)
出生国関係なく誰とでも会話ができるというのも女神としての能力なんだろうけど、それにしても、こんなに正体がバレバレでいいんだろうか? スミレさんって、一応変装してるつもりなんだよね?
あ、それと浮気問題だけど、創造神様が今日の電車に乗ってるハルの姿を空中に映像を浮かばせて見せてくれたので解決した。
確かに、知らない女性の口紅が揺れた車内で付着しただけというのが、事実確認できました。
え? あんなに怒ってた、わたしがどうしたかって? ええ、勿論、愛する旦那様に土下座しましたよ。
ハルは「そんなに嫉妬してくれて嬉しいよ」と言って許してくれたんだけど、あの黒い笑みは何だったのかな〜?
ぶっちゃけ、わたしは女神様達より旦那様の方が怖いです。
前回書き忘れましたが、感想もありがとうございます。
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