大きくなりたい、小さくなりたい
子供というのは順応が早い。
最初はミカさん(俺)の顔を見るとビクビクしていたサキちゃんも、最近は少しずつ自分から話かけてくれるようになってきた。
キチンと理解している訳ではないだろうが、苦手な野菜を食べたら頭を撫でて褒められたり、一緒に隠れんぼをして遊んだりするうちに、同居している大人は味方だと感覚でわかったのかもしれない。
それでも俺が考え事をしながら無言でいたりすると、こっちの様子を黙って窺っているところはあるし、まだ近くで寝てくれる程の信用もないけど、それはこれからゆっくりと信頼関係を築いていければいいなと思っている。
ピーっと音が鳴る。
「たきゃい?(高い?)ひきゅい?(低い?)」
「ちょっと低いね〜」
部屋の中を掃除してる時に、デジタル身長計を発見したので使ってみたのだ。
さっきのピーは、わたしの高さを測り終えたということを知らせてくれた音だ。
デジタル身長計はウサギの形をしていて可愛らしく、ピンク色で塗られている。
そして、それを見たサキちゃんが目を輝かせていた。
どうもピンクが好きっぽい。
「サキもやりゅ」
「いいよ。じゃあ測るから壁のところに立ってね」
「あい」
壁に背中を付けたサキちゃんの頭にデジタル身長計を載せる。
「揺れたりしたら、しっかり計れないから動かないでね」
「わかっちゃ」
このデジタル身長計、頭の上に載せればスピーカーセンサーが反応して、その床の跳ね返り具合で計測してくれるという優れ物である。
せっかく見つけたので、今日は俺とサキちゃんの背の高さを測る事にしたのだ。
ピー。
「お、終わった」
「たきゃい?(高い?)」
「89だから、ちょっと低いかな」
「うー」
スマホで調べたところ、3歳になって0ヶ月と1か月くらいの女の子の平均身長は92と少しだから、サキちゃんの身長はちょっとばかり低いことになる。
「これから伸びるよ」
「はやく、おおききゅなりゅたい」
「早く大きくなりたいか〜。じゃあいっぱい食べなきゃね」
「あい」
俺が優しく頭を撫でると、少し悔しそうな表情をしていたサキちゃんが気持ち良さそうに目を細める。
そこまで身長が低すぎる訳でもないし、気にしなくてもいいとは思うが、成長したいと願ってる子供に余計なことを言わなくてもいいだろう。
サキちゃんが大人になりたいと思っているのなら、側にいる俺は、それを支えていくだけだ。
この後、スマホで20歳女性の平均身長を調べてみると158ちょっとだったので、ミカさんは、それよりも3センチと少し低いことになるのを知った。
まあだからどうした? という話ではあるのだが。
「夜ご飯は何にしようか?」
「おおききゅなりゅやつ」
「うーん、じゃあバランス良く栄養を摂取できるのがいいかな? お肉、魚、野菜、牛乳……え〜と、それから……」
俺は必死に夜の献立を考えているが、その悩みの原因である当の本人は首を傾げている。
そりゃサキちゃんからしたら栄養というのが、どういうものかなんて知らないだろうし、当然っちゃ当然か。
子供の身長を伸ばす為には、どういう献立にしたらいいんだろうか? と思い、スマホで調べてみると、なんか怪しいのか効くのかよくわからないサプリのページばかりが出てきた。
全国のママさん達が、こういう物から他の物まで色々なところから情報を厳選していると思うと、尊敬の念を抱く。
(母親って大変なんだな)
謙虚な気持ちを持ったかのような俺だが、夜、サキちゃんが寝静まった後、物音を立てずに風呂場へと移動する。
子供は眠ったと思っても意外に起きていたりすると、昔の同僚が言っていたので急がねばならない。
しかし前世での会話は思い出せるのに、友人などの顔がボヤけるのは不思議なもんだ。
そして、何がとは言わないが、体のある部分をメジャーで測るとFサイズだった。
「どうりで肩が凝るわけだ……」
サキちゃんは大きくなりたがっているが、それとは違う意味で小さくなりたいと思った。
だって邪魔だし、女性になって知ったけど、重いんだよ、これ。
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