ピアノ
最終章です。
この章で完全完結します。
サキちゃんが保育園でピアノに興味を持ったみたいだ。
どうやらチナツさんが弾いているところを見て自分でも鍵盤を叩きたいと思ったらしい。
最近は園でみんなと一緒に歌わず、先生がピアノを弾いてる最中に乱入してくると、チナツさんが愚痴を零していた(笑ってたけど)
それを聞いたわたしは「授業に集中しなさい」と注意する訳でもなく、新品を買ってあげなきゃ! という親バカ振りを発揮したのである。
ピンポーンと家のチャイムが鳴る。
「はーい」
『宅配便でーす』
「いま出ます」
玄関口に駆け寄りドアを開くと、黒いネコがトレードマークの宅急便屋さんが一箱の茶色いダンボールを持って立っていた。
『ありがとうございました』
「お疲れ様です」
荷物を受け取り、2階にあるピンクの部屋へとダンボールを運ぶ。
「サキちゃん、入るよ〜」
「あ〜い」
今日は日曜日。
保育園が休みのサキちゃんは部屋の中で寝転がりながら、ぬり絵をしいた。
因みに、旦那様のハルは休日出勤で1人寂しく出社している。
「サキちゃん、ピアノきたよ〜」
「きちゃの!?(きたの!?)」
ダンボールを開け、中から子供サイズの白いグランドピアノと椅子を取り出し床へ置くと、すぐにサキちゃんが座って鍵盤を叩き出した。
♪♪〜 ♬!♬!♫!ー!!!
「ちょ、うるさっ!」
「きゃあ〜」
まだどれが何の音かも理解してないサキちゃんが鍵盤を叩き出したので、美しい曲になんてならない。
メロディーは滅茶苦茶だし、このままじゃただの騒音である。
ここは元ストリートピアニストのわたしが教えるしかないだろう。
「サキちゃん、これがドだよ」
「どぉ〜」
「うん。でこれがレね」
「れえ〜」
「そうそう。次がミだよ」
「みぃ〜?」
わたしが指で叩いた鍵盤を追いかけてきて、音を鳴らしていくサキちゃん。
まるで親ガモの後を必死に付いてくる子ガモみたいだななんて思い、わたしはクスリと笑う。
「うん。次がファで、これがソ」
「ふぁとちょ」
「続けて、ラ、シ、ド」
「らちど!」
「そうそう」
「らちど! らちど!」
語呂が良かったのか音が気に入ったのか、何故かラシドだけを連発で引き続けるサキちゃん。
あかん。
これ、ハルが帰ってきたら「何を、また変なこと教えてんだ?」と、白い目で見られるパターンだ。
(修整しなければ……)
ここはサキちゃんに1曲覚えてもらって、仕事帰りのハルに演奏を披露し「たった1日で上手になったな」と褒めてもらうしかない。
そうすれば、教えたわたしも自然と称賛されるはずだ。ごくり……。
「らちど! らちど!」
「ほ、ほらサキちゃん……これがドレミ、ドレミだよ。弾いてごらん?」
「らちど〜」
「違うよ。ドレミ〜」
「らちど〜」
「ファとソがないね。って、なんでやねん!」
わたしが弾いた後にラシドを持ってくるという高等テクニックを編み出してしまった我が子が恐ろしい。
いやいや焦っちゃダメだ。
ハルが帰宅するまで、後、数時間はある。
順に音を鳴らすドレミに興味が強く惹かれなかっただけかもしれないし、違う角度からアプローチすればいいだけだ。
「ほらサキちゃん。ド、ド、ソ、ソ」
「らちぃど〜」
「うん。ソの次はラやな。サキちゃん天才やん。って、ちゃうわ!」
この後、ピアノを弾き疲れたらぬり絵を始めるという行動を何度も繰り返していたサキちゃん。
いやいや、楽しそうでよかったよかった。
「さ、晩ご飯は何にしようかな?」
「ママ〜」
「うん? なに?」
「げんじちゅとうひしちゃの?(現実逃避したの?)」
「サキちゃん、それどこで覚えてきたの?」
今思えば、この時はとても平和だった。
なんせ、うちの旦那様がYシャツに口紅をつけて帰ってくるなど、想像もしていなかったのだから。
特に更新日は決まっていないので投稿が早かったり遅かったりとマイペース更新になると思います。