サキちゃんとハルと一緒
大阪、高槻駅にある大型デパートの6階には屋上遊園地と呼ばれる遊び場がある。
子供達が運転できるゴーカートに、ただ左右に揺れるバスやタクシー。
その他にも小さい駅のホームから、ゆっくりと線路を進むアニメキャラの機関車や、ちっちゃい馬に乗って回るミニ・メリーゴーランドなどがある。
しかも屋内には何匹かのワニを叩いて遊ぶ物や盤上の上で円盤を打ち合い得点を奪い合うエアホッケー、景品がラムネだけのクレーンゲームなど、昭和レトロな匂いのする遊具が何台も置かれている。
つまり、ここは大人も子供も一緒に遊べる夢一杯の場所なのだ。
(懐かしいなあ)
昔、男性だった時は仕事の休憩時間に一服……といっても別にタバコを吸う訳ではなく、コーヒーやジュースを飲む為にデパートの屋上を利用していた。
あの時は乗り物で遊んでいる子供達を設置されているベンチに座り、優しく微笑ましく見守っていたものだ。
今の時代にそんな事をしていたら、完全に不審者扱いだろうけど……。
(こういう光景、東京じゃ全く見なくなったなあ)
時代が進むと共に、デパートに有った遊具は次第に数を減らしていき、最終的には屋上も封鎖されていった。
なので、大阪に残っていた古き良き光景を見ると、なんというか懐かしさで胸が一杯になる。
「ママ、つぎゅ(次)あれ! あれ、のりゅ!(乗る!)」
「サキちゃん、落ち着いて」
うん、サキちゃんは大阪まで連れてきた。
ダイキさんの家に預けてもよかったんだけど、せっかくなら色々と経験させてあげたい。
仕事はハルが短い打ち合わせだけで済むよう事前に調整してくれていたし、午前中には終わりそうだったので、一緒に来たスミレさんにサキちゃんの面倒を泊まっているホテルで見てもらっていた。
秘書の業務がそれでいいのか? という気がしなくもないが、残念秘書さん本人も乗り気だった為、お願いすることにしたのだ。
「ふふふ、いきますよハル君! スミレ必殺のサーブを受けてみなさい!」
「……」
「ああー!?」
「自殺点だな」
ハル達はエアホッケーで対決していたのだが、うちの女性秘書さんは手に持っていたマレットという道具の裏側にパックを当ててしまい、自らのゴールへ入れていた。
ある意味期待を裏切らないが、やっぱり残念な秘書だ。
「ママ、はやきゅはやきゅ!(早く早く!)」
「わかったわかった」
サキちゃんに急かされて、わたし達はアンでパンなアニメキャラ達の赤い機関車へと乗り込む。
(あ、なんかワクワクしてきた)
大人だけなら恥ずかしくて乗れないが、今日は子供がいるという大義名分がある。
(これは小さなお子様を持つ者の特権かもしれないな)
わたしは椅子に座り、サキちゃんは隣に来る……のかと思いきや、当たり前のように膝の上に乗ってきた。
かわいい。
ゆっくりと機関車が動き出し、少しずつ景色が変わっていく。
「サキちゃん、楽しい?」
「あい」
顔を近付けてサキちゃんの様子を窺ってみると、瞳を輝かせて興奮しているのが伝わってきた。
(よかった。もう乗り物にも大分慣れたみたい)
昔は動く乗り物に対して苦手意識を持っていたサキちゃんだけど、祖父であるダイキさんの家に向かう為にスミレさんがリムジンで迎えに来た頃くらいから、それが少しずつ薄くなっていったように思う。
(今じゃビクビクしてた頃が嘘みたいだよね)
たぶん、買い物や海に行ったりする時に移動で車を使っていたから、経験していくうちに乗り物は怖いだけじゃなくて楽しいこともいっぱいあると知っていったのが大きいのかもしれない。
(変にトラウマにならないでよかった)
「わあ〜」
「ふふ、楽しい?」
「たのちい!」
「あ、ハルだ」
「はりゅ?」
「うん、ほら手振ってあげな」
スミレさんはエアホッケーで大負けしたのか、うつ伏せで設置されているベンチに寝転がっていた。
一方、ハルは立ったまま、わたし達を見守っている。
「ほら、パパ〜って」
そのわたしの言葉に、何故かサキちゃんは首を傾げた。
「ハリュ、パパにゃの?(パパなの?)」
「えっ!? うん、そうだよ」
「だれにょ?(誰の?)」
うん? これ、もしかしたらハルってサキちゃんの中じゃ、優しい親戚や近所のお兄さんって感じで父親としては認識してないんじゃ?
となると、結婚式もパーティーみたいなものと考えていたのかもしれない。
これはいけない。
早急に教えなければ。
「ハルはサキちゃんのパパになったんだよ」
「ちょうなの?(そうなの?)」
「うん」
「ハリュ、サキのパパ?」
「そうだよ〜」
「ママとおんにゃじ(同じ)」
(わたし(元ミカさん)が急に母親になったのと一緒ってことかな?)
「パパ〜!」
元気よく声を出しながら、ハルへと手を振るサキちゃん。
急にパパと呼ばれた旦那さんは驚きと嬉しさで、なんか変な顔になっていた。
たぶんニヤけすぎないように我慢したんだと思うけど、そこは素直に笑ってればよかったんじゃないだろうか?
まあ、変な顔になりながらもハルは手を振り返していたけどね。
「「パパ〜!」」
声を揃えて手を振る、わたしとサキちゃん。
「……」
何も喋らず、変な笑顔で手を振り返すハル。
TSした者同士の男女に血の繋がっていない子供の特殊な家庭だけど、これからも家族3人仲良くやっていこう。
サキちゃんとハルと一緒に。