TS転生したけど、結婚した
今、わたしは結婚式会場の控室で頭から腰まである長さの白いベールに包まれ、ウエストからふんわり広がるウエディングドレス着ている。
姿見に写る花嫁姿を見れば、誰もが幸せそうと考えるのかもしれない。
けれど、わたし自身の気持ちは現在の状況に追い付いていなかった。
「展開が早い!」
そう声に出してしまっても、仕方がないというものだろう。
何故なら、あの破談になったお見合いの途中でハルにお姫様抱っこされたまま別室へと連れて行かれ、その部屋で婚姻届にサインをさせられたからだ。
そして気付けば式場も抑えられていて、あれよあれよという間に結婚当日である。
マリッジブルーになど陥る暇もなく、寧ろ、一体どこへ消えたんだろう? という感じだ。
それに寿命の件があるとはいえ、流石に性急すぎると思い、ハルに「なんでこんなに急ぐの?」と確認してみたら「早く結婚を現実にしたかった」という答えが返ってきた。
言ってる時には顔を赤らめていて照れくさそうだったけど、なんていうかそこまで一途に想われると男女関係なくかわいいなと思ってしまうよね。
そんな事を思いながらクスリとしていると、義父であるダイキさんがドアをノックして入室の許可を取った後、控室に入ってきた。
「ミカ、準備はいいかい?」
「……うん」
心構えができているのかと問われれば微妙だけど、式には友人や仕事関係者も招いているので今更中止にはできない。
なので、ダイキさんに聞かれて返事をするまでに少し間が空いてしまった。
サキちゃんは少し前までは、わたしのウエディングドレス姿を控室で見てハシャいでいたけど、今は先に義母のヒナタさんと礼拝堂へ行き白い椅子に座っている。
「じゃあ行こうか」
「はい」
ダイキさんに付き添われ、入場曲と共に扉が開いた後、ヴァージンロードを歩く。
礼拝堂には何万個ものクリスタルが飾られ、白い十字架まで輝いているように見える。
「ママ、きれ〜(綺麗〜)」
(サキちゃん、ありがとう)
「……創造神様、現世にまで降りて来ないでくださいよ……」
「あら、別にいいじゃない。わたしだって、お祝いしたいわ」
スミレさんの声が聞こえたけど、ヒソヒソと話しているみたいで、何を言っているかまではわからなかった。
というか、隣に座っている人は誰だろう? 招いた覚えがないので残念秘書が勝手に友人を呼んできたんだろうか?
まあ、わたし達以外にもスミレさんに友達がいてよかった。
他にも赤いパーティードレスを着たチナツさん、相変わらずヒョウ柄なユキ、その他にも仕事関係者で仲良くなった人達が拍手を送ってくれるのが目に入る。
祭壇前まで進み、黒い蝶ネクタイにタキシード姿のハルの隣へと立つ。
相変わらず何着ても似合うのが、少し悔しい。
『──では、誓いのキスを』
互いに顔を真っ赤にしながらも口付けを終わらせた後、そのまま神父の進行で式は順調に進み指輪交換へ。
ピンクダイヤが嵌め込まれ、桜の彫刻が彫ってあるリングは、わたしが購入したものだ。
ハルは結婚指輪は自分が買うと言っていたんだけど、婿(カナメの時は嫁)にもらうと言ったのは誰だ?
そう、わたしである。
なので、責任を取るという意味でも、こっちが指輪を用意したい! と強情に言って無理やりに納得させたのだ。
因みにハルは婿に入るので、わたしやサキちゃんの名字は変わらない。
ただ、桜芝が無くなり野上になる。
そしてハル、ミカ、サキで春に美しい花が咲くとなるから桜がモチーフの指輪にした。
誕生石にするという手もあったけど、3人繋がっているというのを形にしたかったのだ。
血は繋がっていなくても、わたし達は家族だよという意味でもね。
◇ ◇ ◇ ◇
礼拝堂での式は無事に終わり、今度はビュッフェスタイルのガーデニングパーティーへ。
そして花嫁になったからにはブーケを投げるというイベントがある訳で……それを絶対取ってやろうという約1名の鼻息が荒い。
(なんか騒ぎになりそうだしスミレさんの方には投げないようにしよう)
背を向けて投げるので、正直どこに行くかなんてわからないけど、間違ってサキちゃんとスミレさんが取るのだけは阻止したい。
「とりゃあー!」
うん、やっぱり残念秘書は残念だったよ。
普通、横っ飛びしてまでブーケをキャッチしようなんて思うかな?
みんなそうまでして相手が欲しいかと少し引いた後、スミレさんを見る目が優しくなってるし……。
「やった! やりましたよ! これで次はわたしが結婚する番です! え……なんですかみなさん、その眼差しは!? うわ〜ん、同情するなら彼氏をくださいよ!」
『……』
「み、ミカ、おめでとう!」
「ユキ、ありがとう」
「わたしからも言わせてもらうわ。おめでとう」
「チナツさんも、ありがとう」
今はスミレさんに関わっちゃいけないと誰もが考えたのか、ユキが祝いの言葉を述べた後、その流れでみんなが、わたしとハルに声を掛けてくる。
(少し喉が乾いたな)
「ほれ」
「あ、ありがとうございます」
会話をしてる途中で喉が渇いたのを察してくれたのか、スミレさんの友人が飲み物を手渡してくれた。
「賑やかな式だな」
「はりゅ〜、そうだねぇ〜(ハル、そうだね)」
「おい、酔っ払ってるのか?」
「しょうんなことないじょ〜(そんな事ないぞ)」
「あっ!? 創造神様、そのお酒どっから持ち込んだんですか!?」
「あはは〜。ミカ大丈夫〜?」
「ユキじゃあ〜(ユキだあ)」
「ちょっと誰よ? ミカにお酒飲ましたの? この子、寝るか甘えるかしかしないんだから」
「チナツしゃーん(チナツさーん)」
「ママー!」
「サキちゃーん! あのねぇ〜、ママねぇ〜、TS転生しちゃけどねぇ、結婚ちたの!」
これで2章は終わりとなります。
理想を言えば2章だと中途半端な感じがして3章で終わらしたいのですが、この物語は一旦ここで終わりにしようと思います。
もしかしたら3章を書くかもしれませんし、SSは載せようかな? とも考えています。
まあ恋愛メインにはならないと思うのでジャンルはヒューマンドラマに戻しておきます。
お読みくださりありがとうございました。
また誤字報告、感想、ブクマ、評価もありがとうございます。