見守らせてもらおう
タイトル短くしました。
「ヴィ、ヴィオレータ……く、苦しい……」
感情が振り切れてしまい、気付いた時には、創造神様が着ている、服の襟首を無意識に両手で締めていた。
平常心を取り戻す為、わたしは深呼吸をし、心を落ち着かせたところで手を離す。
「ハァ、ハァ……すいません。取り乱しました」
「……い、いいのよ。大変だったわね」
原因の1人でもある創造神様に労いの言葉を掛けられると複雑な気持ちになり、また暴れてしまいそうになるが、場を誤魔化す為に咳払いをして平静を心掛ける。
今は自分の事より、わたしの恋愛事情を聞いて、気まずそうに左右へ目を動かしている男神達の処罰が先だ。
「さて、あなた達の罪状ですが……」
「しょ、証拠はあるのですか!?」
「そうですぞ! わたし達が罪を犯したというのなら、その根拠を示していただきたい!」
「ええ、何も証拠が無いのに裁くなど、言語道断です」
「先程、魂の一致を確認したと言ったでしょう? それに、あなた達が消滅させた魂は創造神様が復元し、既に違う世界に送っています」
地球で人生をやり直させようと考えていたのだが、本人が異世界行きを希望したので、迷惑を掛けたお詫びとして望みを叶えることにした。
日本とは全く違う環境だが、創造神様の加護もあるので、それなりに楽しくやっていけるだろう。
「では、諦めの悪い、あなた達へ懇切丁寧に説明してあげましょう」
「「「……」」」
「まず消滅してしまった魂の復元をした時、その場で本人から何が起こったのかを聞いています。それに『世界の記録』でも確認しました。映像も残っていますよ」
ここにくるまで、本当に長かった。
創造神様に日本へ潜入してもらい、四季要を、本来の性別である女性へと戻す。
桜芝春の肉体を神界で復活させ、野上美花として生きてきた魂を入れ(本人の同意は得た)定着したところで、男口調の特訓をした。
天界でハル君に四季要がミカさんになっているという資料を間違ったという体で渡し、本来の運命の相手であるということに気付かす裏工作をした苦労が、今、やっと報われようとしている。
「後はですね……」
そして、わたしや創造神様が、今まで何をしてきたかというのを1つずつ説明していく度に、青褪めていく男神達の表情。
ああ、気持ちいい!
「……以上です。言い訳を聞く気はありません。さて、あなた達への処罰ですが……」
そこまで言ったところで、わたしは創造神様へと視線を投げる。
この手で男神達を裁きたいという気持ちはあるが、あくまで自分がしてきたことは部下としての証拠集めで、判決を下すのは彼女だ。
「ここまで創造神である、わたしやヴィオレータの手を煩わせたんだから、あなた達には消滅してもらうわ」
「そんな!? 何かの間違いです!」
「そうです。裁判もせずに裁くなど、いくら創造神様でも横暴ですぞ!」
「天界のルールでは、罪が確定されていない者を罰してはいけない筈です」
この期に及んで言い訳する男神達の姿に辟易するが、ここでキチンと止めを刺してあげようではないか。
「それはあくまで人間達に合わせた法律です。確かに天界で過ごしている神達にも、そのルールは適用はされますが……」
「では、再調査を要求する!」
「わたしもです!」
「右に同じく」
「話を最後まで聞きなさい。ルールは適用されますが、例外もあります。天界法、第1条には創造神様、またはその者に命を受けた神(人)に限り、法令を遵守せずともよいと書かれている筈です」
「そ、そんな……」
「……横暴だ」
「……」
「あなた達のような者がいるから、わたし達みたいに、違反を取り締まる神が必要なんですよ?」
「ヴィオレータ、笑顔が邪神みたいになってるわよ? まあいいわ。では、さようなら」
そう言った創造神様が右手を男神達へ向けると、彼等は半球体の白い光に包まれる。
最後には愚痴も零せず肉体は滅び、ドーム状の中には、テニスボールサイズの黒い塊が3つ残った。
「汚いわねえ」
男神達の残された魂を見て、創造神様は顔を顰める。
例えば人間なら、大人になると共に汚れていったりもするが、ここまで神で漆黒なのは珍しい。
犯罪や不正を繰り返してきた証と言えば、それまでだが……。
「創造神様、それ、どうするんですか?」
「浄化して新しく神として生まれ変わらせるのも面倒だし、違う世界で人間に倒される雑魚モンスターとして誕生させるわ。輪廻させるから、彼等が消滅させた魂を持つ者に、何度も命を奪われるでしょうね」
「まあ、自業自得ですね」
「自分達が神というのを忘れ、魂がボロボロになった頃、もしかしたら、人として生まれることができるかもしれないわね」
創造神様が右手を軽く払うと、黒い塊は、どこかへ飛んで行く。
多分、違う世界へと向かったのだろう。
「あの人達じゃ、罪を洗い流すことはできなさそうですけどね」
「まあもう終わったことだし、どうでもいいわ。ああ、このことは看守達も口外しないように。今日、見聞きしたことは忘れなさい。いいわね?」
「「ハッ!」」
看守達は敬礼しながら返事をし、無言で何度も頷く。
自分達を簡単に滅ぼせる存在が目の前におり、その力の一端を目に入れてしまった。
きっと、今、体中を恐怖が支配していることだろう。
「なにはともあれ、これで一件落着ですね! わたしの仕事も御役御免でしょうし、これからは婚活をがんばるぞー! って、創造神様? なんで顔を逸らすんですか?」
「……ミカとハルは元々の身体に戻ったとはいえ、新しい肉体でもある訳だし、もし魂がズレそうになった時には、すぐ近くで対応できる人(神)にいて欲しいっていうか……」
「えっ……? あの、それって、いつまでですか?」
「ミカとハルの2人が亡くなるまで」
「そんな〜!? いや、創造神様が面倒見れば、いいじゃないですか!?」
「わたしは新しい世界を創造しちゃったから、そっちの管理で忙しいし、日本支部の後任も探さなきゃいけないから……」
「ええ……」
全身から力が抜け、わたしは床に手と膝を付く。
せっかく忙しさから抜け出せて、これからの女神生は薔薇色だと思っていたのに、なに、この仕打ち?
「酷いですよ、創造神様?」
「ほ、ほら、ヴィオレータ。地上を見てみなさい。なんか面白いことになってるわよ?」
「え? なんですか?」
『な、な、な、なにすんねん!? アホー!』
創造神様に言われて地上を見てみると、ハル君がミカさんにキスをして叩かれていた。
「当てつけか!」
「……タイミングが悪かったみたいね。でも、自分達の性別は認識できたみたいよ? それにしても、あのユキって子は面白いわね。ハルを手に入れようとしてたのも本気みたいだったし。お見合いの話が、どっちに転がっても上手くいくようにしてる頭の良さも素晴らしいわ。将来は女神候補かしらね?」
「運命の相手以外、2番目、3番目になる可能性なんて、誰にでもあるんですけどね。わたし達は種を撒いてるだけですし、花を咲かせるのは本人達次第ですから」
「そうね……って、うん? あなた、サキちゃんに加護あげてるじゃない!?」
「あ、あはは」
「笑ってるんじゃないわよ!? 愛の女神であるヴィオレータによる加護なんて付けたら、周りが過剰に反応するわよ? 道理でミカ達がサキちゃんに対して、どんどんと過保護になっていってる筈だわ。ただでさえ暑苦しいのに」
「い、いってきま〜す」
人間界へと向かい走り出すと、後ろから創造神様が慌てた声で「ちょっと待ちなさい!」と叫んだので、わたしは1度だけ振り返り「これで貸し借りチャラですよ?」と笑顔で言った。
「くっ……」
わたしへの仕事量は自分に原因があると理解しているのか、創造神様は悔しそうな声を漏らしたが、それ以上は何も言ってこなかった。
「ミカさん、待っててくださいね。今すぐ、頼りになる秘書が向かいますから!」
わたしの青春は、まだまだ遠そうだけど、女神にとって人間の寿命など一瞬だ。
だから、ミカさんやハル君達が亡くなるまでは、傍で見守らせてもらおう。
問題があるとすれば、今から人間界に行く、わたしの顔が酷く疲れているということくらいだろうか?
「自分が恋愛できない分、あの2人に楽しませてもらうしかない!」
こうして、わたしはヴィオレータから、秋川菫へと戻った。
次からミカさん視点に戻ります。
投稿日は未定です。




