42731番
今回からヴィオレータ視点が2、3話続きます。
人間社会でいうところの刑務所を目指し、呼び出した3人の男神を引き連れ、天界の道を歩く。
「ヴィオレータ様。一体、どこへ向かっておられるのですか?」
「黙って付いてきなさい」
「「「……」」」
男神である1人の言葉を黙らせると、何を聞いても無駄と悟ったのか、他の2人も言葉を発さずに無言で後ろを付いてきた。
普通、神は「柱」で数えられるが、天界では多くの人間達と接する為に「人」の方を使用していて「柱」を付けるのは神界でのみだ。
「ご苦労様です」
「これはヴィオレータ様。お疲れ様です。話は聞いておりますので、このまま、お進みください」
「ええ、ありがとう」
刑務所に着いて、立っていた門番に挨拶し終えると、そのまま建物の中へと入っていく。
後ろでは男神達が小声で「……なぜ刑務所に……」などと、不安そうな表情を浮かべながら話をしているが、彼等の相手はせずに事務室へと進む。
警備室の扉の前まで行くと、わたし達に気付いた案内役の看守が部屋から出てきて、敬礼をしてきた。
「これはヴィオレータ様。出迎えにも行かず申し訳ありません」
「別に構いませんよ。それで頼んでいた件は?」
「はっ! ただいま係の者が呼びに行っておりますので、部屋の中で座って、お待ちください」
「わかりました。失礼します。ああ、あなた達は壁際に立っていなさい」
わたしの言葉に剣呑な空気を察したのか、男神達は黙って指示に従い、白い壁を背にした。
警備室の中は8畳程の広さがあり、入口側には灰色の机が2台並べて置かれている。
デスクの上にはモニターがあり、画面には建物内に設置された監視カメラで捉えた映像が映し出されていた。
真ん中には2人掛けの黒いソファーが対面で置かれていて、わたしはそこに座っている。
出された緑茶を飲むこと5分。
看守の1人が目的の人物を連れて、部屋の中に入ってきた。
(相変わらず、お爺ちゃんなんだな)
「42731番を連れて来ました!」
「ありがとうございます。申し訳ないのですが、そこで立っている3人を残して、看守の2人は退室をお願いします」
「いえ、それはできません! 業務上問題となってしまいます!」
「……そうですか。では、今から見ることは、全て内密にお願いします」
「「ハッ!」」
退室してしまった方が後悔せずに済んだと思うけど、看守の2人を説得する時間も惜しいので、このまま話を進めてしまおう。
それに問題があるとしたら、この部屋に連れて来られた42731番が、どうにかするだろう。
「ヴィオレータよ、ようきたの〜」
「……こんにちは」
勝手に魂を入れ換えたという罪で刑務所暮らしをしている42731番と、挨拶を交わす。
「ときにヴィオレータよ。少し聞きたいことがあるんじゃが、よいか?」
「なんですか?」
「この刑務所って、囚人100人もおらんよな?」
「いませんね」
「わしの番号、万から始まるんじゃが……」
「それは珍しいですね」
「42731という数字は、お主たっての希望で付けられたと聞いたのじゃが?」
「……」
「これ、どういう意味なんじゃ〜?」
隣に腰掛けた42731番が距離を詰めながら睨んでくるが、わたしも顔を逸らす。
「……別に深い意味はありませんよ?」
「そうか。ヴィオレータがそう言うのなら、そういうことにしておこうかの」
「42731ってだけです」
「言うた! こやつ白状しおったぞ!」
「おい貴様! 先程からヴィオレータ様に無礼な口を聞きおって、失礼だろうが!」
天界では、それなりの立場にいる、わたしへの口利きがなっていないと、今まで黙っていた男神の1人が怒声を上げると、他の2人もそれに続く。
「そうだ! 誰かと思えば日本を見ていた神だろう! 今や罪人の分際で、ヴィオレータ様への態度が気安すぎるぞ!」
「まったくだ。天界を見る者と人間の国を見る神では立場が違うんだ。分をわきまえたまえ」
(あなた達も人間でいうところの中年だろうに、相手より若いというだけで、随分と偉そうなものだ)
「ヴィオレータ、わし、あんなこと言われておる。泣いてよいかの?」
「なに言ってるんですか……いい加減、その姿と口調に違和感が凄いんですよ。元に戻ったらどうです?」
「それもそうね」
隣に座っていた42731番が言うと、先程まで、お爺さんだった姿から、腰まである長さの銀髪女性へと姿を変えていく。
瞳は片方が青色で、もう1つは赤のオッドアイだ。
「「「なっ……」」」
変わった姿を目に入れた男神達から、それ以上の言葉は出てこない。
看守の2人だって口を空けたまま、ポカーンという顔をしていた。
それもその筈で、彼女のことは神なら誰でも知っているし、どの者より立場が圧倒的に上だ。
「どうも! あなた達が罪を擦り付けた創造神です!」
天国、天界、神界とエリアは分けられています。