覚悟
「どうもすみませんでした!」
ハル(元ミカさん)が死ぬ原因を作ったのが、わたしだと考えると申し訳無さすぎる。
そんな思いから、自然と体は勝手に動き、気付けば土下座をしていた。
「……気にしてないから顔を上げろ。実際、死を選んでしまったのは俺の選択だしな」
「許してくれるの?」
面を上げてハルを見つめると、彼は軽く頭を掻きながら、少し困ったような声を出した。
「許すも何も、あれは俺の方が悪いだろ。聞かれたから事実を教えただけであって、あんたに思うところはないよ。寧ろサキを育ててくれて感謝してるくらいだ」
「……そっか」
「ああ」
確かにハル(元ミカさん)が亡くなる原因を作ったのは、わたしだけど、選んだのは彼女自身だ。
それでも自分に責任があると思うと少し落ち着かないが、死んだ本人から問題はないと聞けて良かった。
(ハルには申し訳ないけど、多少、心は軽くなったよ)
「ふう……」
軽く息を吐いた後、喋りすぎて乾いた喉と冷や汗で失った水分を補給する為、大きなペットボトルを両手で掴み、お茶を口に含む。
気分は哺乳瓶でミルクを飲んでる赤ちゃんみたいな感じだ。
「で、俺達、いつ結婚する?」
「ブフォッー!!」
ハルが再び投下した爆弾発言によって、わたしも先程と同じ様、お茶を口から吹き出す。
「汚えな! またかよ!? お前は何回、同じことを繰り返すんだよ!?」
「いやいや! どう考えても、今のはハルが悪いでしょ!? なんでいきなり、そういう話になるの!? 急に結婚とか無理だから!」
大体、わたし達は付き合ったりしてる訳じゃない。
ハルに対して抱くドキドキした気持ちの原因が天界にあるというのは、なんとなくわかったが、実際に恋愛してるのかと言われれば違う気がする。
だって、要は、これって作られた感情ってことになるんじゃないのか?
そんな天界にいる神達? が、勝手に決めたルールに振り回されて結婚するとか、そんなのに納得はできない。
(そうだよ……前世も含めて恋愛した経験の無い人間が色々と段階をスっ飛ばして、いきなり結婚するとかおかしいでしょ)
新しく手渡されたタオルで顔を拭きながらハルから言われたプロポーズ? の話に断りを入れようとした時、目の前に座っている相手の方から、先に口を開いてきた。
「なら、俺とは結婚しないってことだな?」
「……まあ、そうなるのかな? 急に言われても、ちょっと考えられないっていうか」
「……そうか。なら覚悟を決めておけよ」
「え? なんの?」
ハルが瞼を閉じて開いた後、1つ息を吐き出し、ヘーゼル色の瞳で、わたしを捉える。
その目は、とても真剣な輝きを放ちながらも、今から口にすることは如何にも気が重いといった風にも見えた。
なんとなく、心構えを正し、ハルの唇が動くのを待つ。
だけど、そんな精神的な準備など無意味だった。
何故なら、次にハルが言った言葉が、わたしにとっては予想外過ぎたからだ。
「サキと別れる覚悟を」
その言葉に、心臓の音が跳ね上がった気がした。
「な、なんで?」
動揺しながらも、ハルに聞く。
だけど本当は、この質問をしてる時点で答えには辿り着いていた。
「……わかってるんだろ?」
言うな。やめて。聞きたくない。
身体が震える。でも確認しなきゃ。嫌だ。
考えてることが、現実になって欲しくない。
理解したくない。脳が拒否する。嫌だ。
ちゃんと向き合え!
「あんたは長く生きられない」
「俺もだけどな」と、哀しげに笑うハルに慰めの言葉を掛ける余裕もなく、わたしの目から涙が零れた。




