謝罪
ハルの口から、運命の赤い糸なんて言葉が出てくることに違和感を感じる。
失礼ながら、中身が元ミカさんと考えると、どうしてもキャラじゃないと思ってしまうからだ。
わたしの頭の中が、そんな思考に至っていても、目の前に座っているヘーゼル色の瞳をしたハーフは構わずに話を続けてくる。
「知ってるか? 運命の赤い糸って寿命にも関係してくるんだ。よって、あんたと俺が結ばれなきゃ、お互いに死ぬのが早くなるらしいぞ」
(なにそれ? 初耳ですけど?)
「例えば、あんたと俺が結ばれたら2人とも100近くまで生きるとしよう。でも違う人と結婚すると、元から持っている赤い糸が短くなって寿命が縮むんだ。これには恋愛も関わっていて……それから……」
この後に続いた話も含めて、わたしはハルから聞いた情報を頭の中で簡潔に纏めてみる。
1 運命の赤い糸は誰もが持っている。
2 結ばれる者同士は天界によって決められているが、必ず上手くいく訳ではない。
3 運命の相手以外と結婚すると寿命が減る。
4 相手や自分の為にならない恋愛をしすぎていると命が短くなる事もある。
5 違う人と結ばれたとしても、離婚したり別れたりした後で、運命の相手と上手くいけば寿命は戻る。
「……つまり、俺はあんたを巻き込んだが、実際は逆でもあった訳だ。それから、あの爺さんが捕まったのを一言で説明すると、要は不正だな。上に許可を取る手続きをせず、その身体へ勝手に違う人の魂を入れたのが問題らしい」
あっ、まだハルの話が続いてた。
それにしても、今、何か気になるところが、というか疑問点だらけなんだけど……どこから突っ込むべきなんだろう?
とりあえず、1つずつ片付けていくか。
「あの……ハル? 巻き込んだ逆っていうのは? それに元のミカさんと、わたしは上手くいかなかったよね? 生前は出会ってもないし……。それによって、前世(男)の身体は死んだってこと?」
「まあ、そうだな。あんた、男の時に恋も結婚も諦めてたんじゃないのか?」
「確かに、その通りかも……」
「それも自分の為にならない恋愛をしてる事になるんだよ。あんたが死んだ時、あの爺さんの元に俺が幽体離脱して辿り着いたのは事故だが、結ばれる相手の魂に引き寄せられたとも言えるらしいぞ」
(なんで、こんなに淀みなく答えられるんだろう? でも、嘘をついてる様にも見えないんだよなあ)
「……ねえ、そういう情報って、どこで聞いたの? なんか色々と詳しすぎない?」
「元々、天界で働いてたからな」
「えっ?」
なんだ、それ? 天界って、労働しなきゃいけないの?
イメージ的には、自然豊かな草木や花に囲まれて、のんびりと過ごす所だったんだけど……天国とは違うのかな?
「要は、あんたが死んだ時、俺が元の身体に戻ったとしても長くは生きられなかったってこと。相手の糸が無くなれば片方しか残ってないんだから当然ろ?」
「……じゃあ、ハルというか元ミカさんが、わたし(俺)以外と結婚してたら、更に寿命が短くなってたってこと?」
「そういう事だ。相性のいい人とだったら寿命が伸びる場合もあるらしいけどな。言い方は悪いが、本命の相手と上手くいかない道を選ぶ人生は当然有る訳だから、第1候補の他にも2、3番手は存在してる。だけど、そういう人と結ばれない限りは短命で終わるぞ」
「でも、そんな厳しい制約があったら、死ぬ人だらけになるんじゃないの?」
「その為に人類を見守る神や天使がいるんだろ。あんたを生き返らせた、あの爺さんは日本を任された神で、例えると支部長みたいなもんかな? その上に地球を管理する天界があるんだよ」
「神様って、人以外は見てないの?」
「さあ? 俺が働いてたの人生部だったから担当が違うだけなんじゃないか? そこまでは知らん」
なに、その部署? 怖いよ。
しかし、そうなると、あれか? わたしが死んでなきゃハル(元ミカさん)は、あのお爺さん神様の元に辿り着くことはなかったし、自ら命を失う交渉もできていないことになる。
つまり恋愛しなかった人が悪いってこと? え〜と、それは誰になるの?……って、うちやん!
最初はTS転生させられ子育てまでする嵌めになったとか嘆いてたけど、全部、わたしが悪いんじゃん。
だから、ハルは自分が巻き込まれたともいえるって言ったんだ。
だって、わたしが死んでなきゃ、元ミカさんは、今も無事に生きているという事になるのだから。
「どうもすいませんでした!」
この日、わたしは前世も含めた人生で初となる土下座をした。
そして謝罪をしている最中、額に触れる床は意外と冷たいのというのも知った。




