運命の赤い糸
「俺達は、互いを好きになる様にできている」
ハルはそう言うが、わたしにはよくわからない。
恋というのはするものでなく落ちるものだと聞いた事があるし、そういう経験は前世でもあった。
相手の顔は思い出せないが、どうせならミカさんになると共に、昔の苦い記憶も消去して欲しいものだ。
愛? 恋も上手くいってないのに、その言葉を解すこと等、わたしに出来る訳がない。
「ハルさん! ちょっと、よくわかりませんけども!?」
「なんでキレてるんだよ? しかも敬語だし」
「いや、昔の自分が不甲斐なくてね……」
「まあいい。あんたはさ、運命の赤い糸ってあると思うか?」
この言葉は意外だった。
そんな乙女チックな考えをハルがするとは思えなかったからだ。
なんで? と聞かれたら答えは元ミカさんだからと言うしかないだろう。
今までのイメージからするとカツラ振り回したり、ユキさんの頬を叩いて励ましたり、チナツさんのことを覚えてなかったりと、なんかサバサバしてて男っぽいし。
(もしかして、ミカさんがハルという男性の身体を手に入れたのは幸運だったのかもしれないな)
女性って感じしないし。ぷぷぷー。
「あんた、なんか失礼なこと考えてないか?」
「滅相もない」
「ふーん、まあいい。話の続きだけど、あるらしいんだよ」
「なにが?」
「運命の赤い糸が」
「へぇ〜」
恋に恋するというのに女性も男性もないし、その考えを否定はしない。
そんな糸があるなど信用してないが、夢を見るのは個人の自由だ。
「他人事だな」
「まあ、関係ないし?」
「あのな、そんな訳ないだろう。最初に何て言ったか覚えてるか?」
「え〜と、お互いを好きになる様にできているだっけ? でも現実味が……」
「ないか? 本当に? 初めて俺と会った時、どう思った?」
時が止まった様に感じて、恋に落ちました。
一目惚れです。
って、言えるか!?
「あんたが何を考えてるか手に取るようにわかるよ。俺もそうだったからな」
「あの時は、お互いお酒を飲んでたし、勘違いなんじゃない?」
核心に触れられるのが恥ずかしくて、笑って誤魔化す。
アルコールのせいにしてしまえば、この会話は終了だ。
こういう行動をとってしまうのが、前世でも恋愛が実らなかった一因なのかもしれない。
「俺が飲んでたのウーロン茶だ。というか、この身体は未成年だぞ? あんなに会社の人達がいる前で、お酒が飲める訳ないだろ」
見た目と優秀すぎる能力のせいで忘れてたけど、そういえばハルって、まだ18歳だった。
そりゃ、お酒を飲んでる筈がない。
「後、あんまり露出の高い服は着るなよ。元が自分の身体だからモテるのは悪い気がしないが、男性社員達の下世話な話を聞くのはウンザリだ」
「えっ? あっ、はい」
「まあ服のサイズが無いのは知ってるから、あんまり厳しい事も言えないけどな。でも無駄に誘惑すんなよ? わかったか?」
「ご、ごめんなさい」
あれ? 運命のなんちゃらについての話だったよね? なんで、わたしが怒られてるんだろう?
しかも自然と謝ってしまった。
「話がズレたな。これは天界の情報だけど、お互いに経験してるから間違いがないと思う」
「天界? じゃあ、あのお爺ちゃん神様が原因ってこと?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
「どういうこと?」
この恋愛体質が、あのお爺ちゃん神様が原因なら、一言物申したい。
人を女性にした挙げ句、男性を好きになる心にしたというのなら、勝手がすぎるというものだ。
「あの爺さんなら捕まったよ」
「はあ!?」
「まあその話は後でいい」
「いやいやいや、よくないから! あの人、神様だよね!? なんで捕まってるの!?」
「順番に説明していくから落ち着け。まず最初に言っときたいんだが、俺とあんたって、前世から結ばれてるらしいぞ?」
「……何に?」
今までの話の流れから答えは予測できたが、わたしは敢えてハルに問うた。
「運命の赤い糸に」