舌打ち
昨日の活動報告にも書きましたが、暫く投稿を控えさせていただきます。
確約はできませんが、来月上旬には更新しようと考えてはいます。
とりあえず、この1話で今月の投稿は最後です。
「チナツさんと、サキちゃんは座って待ってて」
恵比寿にある灰色ビルで5階建ての社内に入ると、1階の受け付け近くに黒いテーブルと2人掛けのソファーが対面式であるので、そこで2人には待機してもらうことにする。
サキちゃんの面倒はチナツさんに任せ、わたしはエレベーターに乗り、3階にある社長室へと向う。
(あれ? なんか部屋の中から声がするな)
「へぇ〜、じゃあハル君は一人暮らしなんですね」
「そう」
社長室に入る為、ドアノブへと手を掛けたところで、中からスミレさんとサクラシバの会話が洩れてくる。
2人とも土日祝が休みだったと思うけど、一体、何故会社に居るのだろうか?
(まあいいか)
考えても仕方がないし、わたしは忘れ物(財布)を取りに来ただけなので、室内へと入る為にドアを開く。
部屋の中では、社長が座る黒い高級な椅子に腰掛けて、茶色いデスクの上に置かれた有名店の焼き肉弁当を食べてるスミレさんがいる。
デスクの側には、灰色の貴重品入れが有り、サクラシバは其処から財布とスマホを取り出しているところだった。
「……あ、あああ……ミカさん、これは違いますよ! お昼休憩くらい、社長気分が味わいたいから、高級な椅子に座ってやろうだなんて思ってませんよ!」
なるほど、それが理由か。
別にいいけど。
「……チッ」
わたしの顔を見た瞬間、しかめ面をしたサクラシバが軽く舌打ちをする。
ちょっと、失礼すぎやしないだろうか?
わたしも不愉快な気分になり、少し苛ついた声で、サクラシバに質問する。
お互い、顔が赤くなってるのは、きっと怒りからきているということにしておこう。
「え? なんで舌打ちしたの?」
「……別に」
「ま、まあまあ! 2人とも落ち着いて! ところで、ミカさんは、何をしに来たんですか? 今日、仕事は入って無い筈ですよ?」
どこか焦った顔をしながら、わたしが会社に来た用事を、スミレさんが確認してくる。
なんだろう? サキちゃんが隠し事をする時の表情と、同じ様な感じだろうか?
「財布を忘れちゃってね。取りに来たんだよ」
「ああ、貴重品入れに、置きっぱなしなんですね。ミカさん、ドシだなあ〜」
「うるさいよ。スミレさん、体調は大丈夫なの?」
「もう平気です! 少し鼻血を出しただけですから!」
「でも、次に同じことが起きたら、カメラマンは変更するからね」
「ええ!? しません、もうしませんから!」
スミレさんが物凄く必死な顔で、カメラマンの変更を断る。
痛い、腕にしがみついてくるな。
「そういえば、今日は土曜日ですけど、サキちゃんは、お留守番してるんですか?」
「わたしの友達と下に居るよ。これから、みんなでファミレスに行くんだ」
「へえ〜、いいですね」
わたしとスミレさんの会話が気に障ったのか、サクラシバが口を挟んでくる。
「……いい気なもんだな」
「なんなの? さっきから、なんでケンカ腰なの?」
「人に社長命令でモデル仕事をやらせといて、自分は友達と仲良く、お出掛けってか? こっちには休日出勤までさせといて」
「……スミレさん?」
「あ、あー! わたし、用事がー!」
顔からダラダラと汗を流し、そのまま部屋から出て行こうとするスミレさんの襟首を掴んで止める。
「どういうことかな?」
「ちょっとミカさん、顔が怖いですよ……」
「ど・お・ゆ・う・こ・と・か・な?」
「……ご、ご、ごめんなさ〜い! 社長命令って言えば、モデル仕事も休日出勤も、ハル君は断らないと思って……あは、あはははは……」
「……スミレさん、減給!」
「そんな〜。モデルは変な人に頼むよりハル君の方が顔やスタイルも良いし、今日の休日出勤だって、まだメンズ服の撮影が終わってなかったから、色々と仕方なかったんですよ!」
「黙りなさい! 嫌がる社員に上から圧力を掛けて、無理やり仕事させてるとか、それってパワハラだからね! ハルに謝れ!」
わたしに怒られたスミレさんは、サクラシバの目の前まで行き「すみませんでした」と、素直に頭を下げた。
てか、土下座かい。
床に額を付けた姿勢のスミレさんは放っておき、わたしもサクラシバの方を見て謝罪する。
「ハル、悪かったね」
「いや、こっちも勘違いしてた。ごめん」
誤解が解けて互いに目を合わせると、自然と顔の熱が上がり、思わず2人同時に俯いてしまう。
沈黙の中、いつの間にか立ち上がっていたスミレさんが、わたし達を見て眉根に皺を寄せ、舌打ちをした後「青春かよ」と、捨て台詞を吐いて部屋から出て行った。
「あ、わたしも下に戻らなきゃ」
部屋の扉が閉まった音で意識を取り戻し、サキちゃんとチナツさんを1階に待たせたままなのを思い出す。
「ハル、仕事が嫌なら帰って大丈夫だから」
「え? あ、うん。わかった」
「じゃあ、またね」
「そ、その服ってさ、自分で選んだの?」
「ああ、これ? 撮影で着たやつだよ。ファッションには疎いから、モデル仕事で使ったのを、そのまま買ってるんだよね」
「そっか。それって大人も着てるけど、どちらかと言えば10代の女の子達に流行ってる服装だよね」
「なんで男なのにレディース服も詳しいんだよ?」
「……必死に勉強したから」
「そっか、学ぶのはいいことだよね。仕事でも使うし。ところで、この服、似合ってる? エリマキトカゲみたいじゃない?」
最後に茶化して「まったくだ」とか「なんだよ、それ?」みたいに言われたら、会話を終わりにしようと思っていたんだけど、わたしの予想とは正反対の反応をサクラシバはした。
爽やかな笑顔を浮かべて。
「凄い似合ってるよ」
なんだよ、サクラシバって、かわいい顔して笑うんじゃん。
ノベプラで活動を始めたら、読者数の違いなのか、あまり読まれなくて1人で笑いました。
なろうで書いた話を載せているだけなんですけどね。
とりあえずあれです、スタンプでのやり取りが面白いです。