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TS転生したけど、子供いた  作者: 赤途碧
TS転生したけど、結婚した
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両想い


「長い!」


 今週から始まった撮影が、もう金曜日まで続いている。


 この仕事が終われば明日から休みだが、まさか、ここまでモデル仕事が長くなるとは考えていなかった。


 なるべく土日をサキちゃんと過ごす為、平日が忙しくなるのは覚悟しているが(嫌になる時もある)こんなに撮影が続くと、流石に疲れてきた。


 今日も、わたしはグリーンシートに立ち、目の前でカメラを構えるスミレさんに撮られている。


 服装は黒のタイトなワンピースで、右脇から腰の辺りには、白の太いラインが一本入っているシンプルなデザインだ。 


 スカートの丈は、膝より少し上まであるので、そこまで短くはない。


「ミカさん、後はハル君と並んで撮るだけなんで、もう少し我慢してください」

「わかったよ……」


 スミレさんの隣では、上に白ボタンの黒い半袖シャツを着て、下には長さが足首まであるホワイトパンツを履いた格好のサクラシバが立っている。


 顔もスタイルも良いだけに、本職のモデルみたいだ。


「よおーし! 後は2人が一緒に並んでいるのを、いくつか撮れば終わりですよ。じゃあハル君、ミカさんの隣に行ってみようか! なんならボタンも外しちゃってさ!」

「……」


 スミレさん、サクラシバが無言で、静かに溜息吐いてるよ?


「ほら、もっと詰めて! 恋人同士みたいに!」

 

 どうやら残念秘書がカメラを持つと人格が変わるというのを知り、サクラシバは色々と諦めているみたいだ。


 その証拠に、わたしの横に大人しく近付いて来た。


「ミカちゃん、ハル君の頬に手を当ててみようか!? で、そのまま見つめ合って!」

「……」

「……」

「2人とも、何を黙ってるの!? 早くしなさいよ! ほら、ほら、ほらあー!!」

「うるさい! 誰が、ミカちゃんだ!? 大体、雑誌の表紙を撮影してる訳でもないのに、そこまでやる必要あるの!?」

「何を寝惚けたこと言ってるんですか!? これは最早、社運を賭けた戦いなんですよ! 口答えせずに、早くやれえーい!」


 あかん。

 もうダメだ、この人。


「……おい、ここはスミレさんの言うこと聞いて早く終わらそう。とっとと帰りたい」

「……そうだね」


 小声で話し掛けてきたサクラシバに対し、わたしも同じ声量で返す。


 まだタクシーに放り投げられた行為を許していないが、早く家に帰りたい気持ちは一緒なので、ここは協力することにしよう。


(というか、頬に手を当てろって、モデルの顔を隠していいのか?)


 ふと思ったが、カメラを構えてるスミレさんの息遣いが荒くなっていて怖いので、大人しく指示通りに動く。


 サクラシバの頬に手を当てると、自分の心臓音がうるさく聞こえてきて、今にも破裂しそうだ。


 だけど相手にはバレないように無表情を貫き、互いに見つめ合う。


 ん? あれ? なんかサクラシバの顔も赤くない? これって……もしかして、わたしに惚れてるんじゃないのだろうか?


 いや、でも無表情だし、本当の感情はわからないな。


「うーん、まだどこか距離を感じますね。よし、ハル君、ミカさんの腰を持って抱き寄せてみようか!」

「……」


 サクラシバは特に返事もせず、スミレさんの言うことを聞いて、わたしの腰を持ち、自分の方へと引き寄せる。


「よし、お互い、名前で呼び合おう!」


 動画じゃないんだし、そんな行動をする必要は無いと、スミレさんに抗議してみたら「雰囲気が出るんですよ! 静止画ナメんな!」と怒られてしまった。


 一理あるのか? てか、もういいいや。早く終わらせよう。


「今週2人は、ずっと一緒だったのに、なんか距離あるなと思ってたんですよ。これからハル君もミカさんも、名前で呼び合うようにしてくださいね! 静止画だろうと、そういう親密さって出るんですから!」


 本当かよ。

 

 でも、ここで何か言うと、また撮影時間が伸びるだけだろうから、わたしは覚悟を決めてサクラシバを見つめ、名前を呼ぶことにする。


「……ハル」

「……」

「あれ? お前の番だぞ? なに呆けてるんだよ?」

「……うるせえ。おい、もういいだろ? 撮り終わったんなら帰るぞ」

「もう終わったの? って、スミレさん!?」


 サクラシバの問いに返答が無くて、さっきまで騒がしかった残念秘書の方を見てみると、カメラを構えたまま、仰向けに倒れていくところだった。


(やばい! 頭打っちゃう!)


 周りにいた数人のスタッフも、驚いているのか、動けていない。


 慌ててスミレさんの方へと駆け寄るが、わたしも間に合いそうになかった。


(ああ……無理だ、手を伸ばしても届かない)


 諦めかけたその時、残念秘書の後ろに、いち早くサクラシバが回り込み、倒れてきたスミレさんの身体を受け止めた。


 顔もスタイルも良くて、運動神経まで優れているとか、反則だろう。


「頭打たなくて、よかった」


 最悪の出来事にならずホッとしたが、急に意識を失ったのは心配だ。


 サクラシバに、ゆっくりと床へ寝かせられているスミレさんの元に近付くと、鼻血を出しながら「び、美男美女……と、尊い……」とか、呟いていた。


「なんなんだ、こいつは?」

「スミレさんは、カメラを持つと人格が変わるんだけど、それにしても今日は一段と酷い……」

「なんか原因があるのか?」

「ハルがいたからじゃない?」

「……今週は、ずっといただろ」

「なら、わたしとハルの2人が同時撮影だったからかな?」


 あ、自然と名前で呼んでる。


 というか、ハルって呼ばれたら顔が真っ赤になってるけど、これ、やっぱり、わたしに惚れてない?


 これが両想いというやつか……って、そんな趣味はないんだってば!


 スミレさん? 気持ちよさそうに寝息立てて眠ってるよ。


 白シャツの一部分が真っ赤になってるけどね。





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― 新着の感想 ―
[良い点] たっとい……。
[一言] 出血多量で死ぬんじゃないか?
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