有意義な1日
「まじゅい」
「えっ? 不味い?」
お昼ご飯のチーズタッカルビを口にしたサキちゃんから、作り手にとってはショックな一言が漏れる。
「ピーマンとか入れてないけど、なにが嫌だったの?」
「これ、このちろいにょ」
「白いの? あっ、チーズか」
「くちゃい」
「臭いのか。でもサキちゃんって、牛乳は好きだったよね?」
「ちゅき。でもこれ、ぎゅうにゅうちあう」
「確かに、牛乳とは違うね……じゃあこれはやめとこう」
苦手な物を無理やり食べさせる気はないので、サキちゃんのチーズタッカルビは引き取ることにする。
「チーズ抜きで作ってくるね」
「あい」
キッチンへと行き、冷蔵庫から鶏もも肉を出し、一口大にカットする。
コチュジャン、酒、しょうゆ、砂糖、にんにく、しょうがを合わせたつけだれに鶏肉を漬けてもみこみ、少し時間を置く。
玉葱は7〜8センチのくしがたに切り、さつまいもは厚めに輪切りして、キャベツは食べやすいように手で千切る。
「チーズ抜きだから、ただのタッカルビだな」
ごま油をフライパンに敷いて熱し、さつまいも、玉葱、キャベツを投入した後、汁気を切った鶏肉も入れる。
ふたをして蒸し焼きにし、鶏肉に火が通ったら、具材の上下を返して混ぜ合わせる。
更に、つけだれを加えて炒め合わせ、ごまの葉を千切って加えた出来上がりを、器に盛ったら完成だ。
「味は甘辛いって感じだけど、見た目も赤いし、こっちの方がサキちゃんは好きかもな」
これなら、料理が白くなってしまうチーズは、最初から抜いておけばよかった。
「まあ、こんなもんでいいだろ」
刺激を増す為に、一味唐辛子や鷹の爪を加えるという手もあったが、これ以上、サキちゃんに辛味中毒になられてしまっては、たまらない。
なので甘辛いコチュジャンベースだが、見た目は赤いので許してもらおう。
「そういえば、フルーツチーズもあったな」
お腹が空いているだろうから、早く持って行ってあげようとしたところで、ふと冷蔵庫の中にある物を思い出す。
いちご味とブルーベリー味のフルーツチーズがあるので、これならサキちゃんでも食べられるんじゃないだろうか?
なんとなく気になったので、その2つを冷蔵庫から取り出し、出来上がったタッカルビと共にテーブルへと持って行く。
「サキちゃん、これなら食べられる?」
「にゃに、こり?(何、これ?)」
「これもチーズだよ。ほら、あーんして」
「あ〜ん」
商品を包んでいる銀紙を剥がし、三角形で紫色をしているブルーベリーチーズを、サキちゃんの開いた口へと持っていく。
「まじゅい」
ブルーベリーチーズを少しだけ齧ると、サキちゃんは複雑な顔をした後、不満を口にした。
「だめか……なら、こっちは? いちご味だよ」
「いちゅご?」
「うん。あーんは?」
「あ〜ん」
「どう?」
「まじゅい」
いちご味でもダメだった。
わたしはフルーツチーズが大好きなんだけど、サキちゃんには余り美味しく感じられないようだ。
「う〜ん、なにが嫌なの?」
「ちーじゅ、じゃにゃくていい」
チーズじゃなくていい?……確かに!
考えたら、お菓子の○○味とかって、元が美味しいから作られてるんだもんな。
つまり余計なことをするなという訳か……あれ? でも、その結論だと、ノーマルチーズが1番ということになるんじゃないの? いや、牛乳でいいみたいな感じか?……なんかもう、頭が混乱してきた。
「おいちい!」
タッカルビをスプーンで食べたサキちゃんは、とても満足そうだった。
うん、これはチーズがダメなだけだね。
今日は、また新たにサキちゃんの苦手な物が知れて、とても有意義な1日だ。
「あまかりゃい!(甘辛い!)おいちい!(美味しい!)」
テーブルの上には、お米、わかめスープ、もやしのナムルに冷奴と、他のメニューもあるんだけど、タッカルビだけが減っていく。
サキちゃん、そのままだとメインのオカズだけが無くなっちゃうよ?