精神的普通
お見合い会場である一流ホテルのロビーには、白のテーブルクロスが掛けられている円卓の机が100席以上あり、周りには豪華な水色のモダンチェアが並べられている。
そして先程まで、そこに腰かけていたわたしは、今は何故かお姫様抱っこされている状態だ。
上を見れば、両耳に金髪の毛が掛かる長さをしたミディアムヘアに、イギリス人と日本人のハーフである特徴なのか、くすんだ赤みの黄色い瞳をしている人物がいる。
身長は175センチとスタイルも良く、顔も目は2重で大きく、輪郭だってモデルになれるくらいに小さい。
女性が10人いたら、全員が振り返るのではないだろうか? というくらいに恐ろしい程の美形男性だ。
両耳には、後1つでも穴を空ければ耳たぶが千切れるのではないか? というくらいに、幾つものピアスが飾られている。
「ハル……」
「で、どうすんの?」
「〜!! ー!!」
お姫様抱っこしているハルに対して、お見合い相手が何か騒いでいるが、そういえばこの人の名前は何だっただろうか?
しかも、この金髪の人物は、そんなのは意にも介さずに無視を続けているし。
(ハァ……どうしてこうなったかな?)
ロビーから見えるガラス張りの庭園では、わたしが育てている3歳児のサキちゃんが窓に張り付く様に、こちらを覗き込んでいた。
(せっかくおめかししたのに、ドレスが汚れるよ!)
サキちゃんの頭には白く大きなリボンが付いているカチューシャがされていて、服はピンクのワンピースだが、膝下まであるスカートは、お姫様が着ているドレスの様にふんわりとした形をしている。
あー、かわいい。
いや、和んでる場合じゃない。
サキちゃんの側には義父のダイキさんと義母であるヒナタさんもいるが、ガラスに張り付きだしたウチの小さな天使の行動を微笑ましそうに見守っている。
どうやら、わたし達の間に入ってくるつもりはないらしい。
だけどサキちゃんもダイキさんもヒナタさんも、さっきまで庭園にあるテーブル席で3段のケーキスタンドに乗ったお菓子を幸せそうに食べながら紅茶を飲んでいたのに、覗き込んでいる事から、今はこちらに興味津々ではある様だ。
「……で、どうすんの?」
「……道は1つしかないんでしょ? なら覚悟を決めるよ」
小声で再び問いかけてきたハルに対して、わたしも同じ声量で返す。
「……後悔しない?」
「……さあ? でも、かわいい娘であるサキちゃんを育てていく為だからね」
またハルの問に答えた後、お互いに小さく頷き、わたしはお見合い相手の方へと顔を向けた。
相変わらず何か騒いでいたが、こっちもそれどころじゃなかったので、そこは許して欲しい。
お見合い相手を見つめると、向こうも話を聞く態勢に入ったのか、いきなり静かになった。
沈黙が場に流れている中、1度だけ深呼吸をし、口を開く。
「ごめんなさい。わたし、この人と結婚します!」
お見合い相手が何か言う前に、ハルが顔を近付けてきて、そのまま口付けされる。
(いきなり何すんだ!?)
いや、それよりもこの胸の高鳴りは何だろう? これが俗に言う精神が身体に引っ張られるというやつなのだろうか?
え? お前はTSしているから、これって精神的BLじゃないのかって? うん、違うよ。
いや、だってハルは外見上18歳の男性だけど、中身は女性なのだから。
なので、これはBLでもGLでもなく、精神的普通だ。
細かい事は言うな。
しかしまさかTS転生した者同士が結婚する事になるなんて、世の中は不思議で満ち溢れているものだ。
なんて考えていたら、庭園の方から無邪気でかわいらしい声が聞こえてきた。
「チューちた!」
サキちゃん、目を塞ぎなさい。
段階的なストーリーから始めようか、エピローグ的なのから始めようか迷いすぎて、投稿するのに大分時間が掛かりました。
結果はこうです。