スーパー
ファミレスで朝ご飯を食べた後、駅のすぐ側にある『シーユー』というスーパーへ行くことにする。
今の俺の顔が美人だからか、やたらと周りから視線を感じるが、一緒にいる女の子を見て子持ちとわかったら興味を失うようだった。
家の冷蔵庫にはビールしか無かったので、とにかく健康を考え、野菜、お肉、果物とバランス良く揃えながら買い物カゴに入れていく。
後は忙しくなった時の為などに、カレーやパスタ、その他レトルト食品などを一通り購入した。
勿論、基本の食事は愛情を込めた手作り料理でやっていこうと考えている。
(確か、前世ではお酒好きだったな。でもそれでトラックに轢かれたんじゃなかったっけ?)
余りよくは思い出せないが、なんとなくそんな気がした。
(うん、冷蔵庫にあるビールと部屋にあったタバコは捨てよう。アルコール臭のするママとか嫌だもんね)
夜に働いているとかなら仕方がない理由ではあるが、アパート内を見渡しても、今、俺である女性がキャバクラに勤めているとか、そんな気配はしなかった。
もしかして無職なんだろうか?
この女の友達とかから連絡がきたら、どう対応していいかわからなかったので、わざとスマホを家に置いてきたが、アパートに帰ったら色々調べてみようと思う。
他人のプライバシーを侵害するようで申し訳無い気もするが、いきなり子持ちになった俺も何かと精一杯なので、そこは勘弁して欲しい。
(朝はお子様ランチだったし、昼は何にしようかな?)
そんな風に考えながら、俺と女の子はゆっくり、お菓子コーナーへと向かう。
(いや、ちょっと待てよ。あれだけお子様ランチに目を輝かせてたんだ。これ、もしかして昼に作る料理へのハードルが上がってないか?)
女の子はオムライスに刺さっていた旗を、今も嬉しそうに右手に持っていた(爪楊枝は危ないので外してある)
(こうなったら、食べたい物を直接聞いてみるか)
「ねえ、お昼何が……」いい? と聞こうとしたところで、お菓子の箱を女の子がジッと見つめていることに気付く。
表紙には美少女戦士達が描かれており、中には彼女達アニメキャラが悪の組織と戦う時に使うオモチャが入っているみたいだ。
(俺も何度かテレビで番組を見たことがあるな)
小さな子達から大人の男性や女性にも大人気なアニメだし、この子がオモチャを欲しがるのも理解できるというものだ。
ずっと女の子は何も喋らずに、その場に留まったまま、アニメキャラの絵が描かれているチョコレートのお菓子を黙って見つめていた。
だから聞いたんだ。
「欲しいの?」と。
女の子は問いかけた俺の方へ振り向くと、口を開いて答える。
「ほちいのあっても、わかままいっちゃダメ(欲しいのあっても、ワガママ言っちゃダメ)」
もしかしたら、この子は今まで気に入った物があっても、ずっと何も言わずに我慢してきたのかもしれない。
アパートの中にだって、オモチャらしき物は1つだって見かけなかった。
そうとなれば俺がすることは1つだろう。
「今日はいいよ」
「ほんちょ?」
「本当!」
女の子は花が咲いたかのような笑顔になり、お菓子を1つ持ってきて買い物カゴの中に入れた。
やっぱりアニメキャラが描かれたハート型のオモチャが入っているから、それが欲しかったのだろう。
女の子はニコニコと、如何にも嬉しい! というような表情を浮かべていた。
箱に描かれているオモチャはピンク色で、名はパクトというらしく、開け閉めもできる。
中の上内側は鏡になっていて、下には何個かの子供用化粧品がセットになっているみたいだ。
こういう物を欲しがるっていうのが、小さな女の子らしくて、凄くかわいく感じてしまう。
「それから、昼食のメニューは何がいい?」
「おちるのおべんちょう?(お昼のお弁当?)」
「……」
どうもこの子は、お弁当だけがご飯と思ってる節がある。
思わず泣きそうになった俺を、誰か褒めてくれ。
ブクマ、評価ありがとうございます!