愛情表現
話し合いをしようと言ったミカさんと目を合わせた瞬間、何かの力に引き寄せられた。
「うわっ! あれ?」
思わず声を上げたが、気付けばミカさんの身体の中に戻っていた。
「うわー、やっぱり元には戻れないんだ。なんか変な感じ」
「既に、こ奴の魂の方が身体に合ってるからな。だから言ったじゃろ?」
目の前では霊体?(いや、でも目に見えるから違うのか?)になったミカさんと、お爺ちゃん神様が話をしている。
「さっきは入れたじゃん」
「あれは、こ奴が物凄く動揺してたのと、お主がユキという人間をどうにかしなきゃいけないと思った意志の強さによって起こったものじゃ。まあ問題が解決すれば元に戻る程度じゃがな」
「へー」
「あの〜、ミカさん、神様?」
わたしを無視して会話を始めてしまった2人に声を掛けてみる。
「あ、ごめん。忘れてた」
「わしもじゃ。すまんの」
酷い。話し合いをしようって言ったの、そっちだよね?
「ああ、それから、お主の目の前にいるミカは霊体で間違いないぞ。わしの力で見える様にしているだけじゃ。時間も止めてある」
「おっ、爺さん。気が利くじゃん」
「だって、お主が我儘すぎるんじゃもん。これが終わったら輪廻の輪に戻れよ? もう次の転生先も決まっとるんじゃからな」
「あー、しつこいな! わかったよ!」
この人、相変わらず神様を困らせてるのか……最初の時と何も変わってないな。
というか、お爺ちゃんも「じゃもん」とか、かわいい発言をするなよ、情けないな。
でもせっかく話ができる機会だし、謎に思っている事は聞いておこう。
「あの〜、ミカさんって、自分の身体に戻ってきたんじゃないんですか?」
「さっきも言ったが無理じゃ。お主の魂の方が既に身体には合ってるしの」
ミカさんに聞いたのに、何故か神様から返答がきた。
(うん、よくはわからないが、そういうものだと思っておこう)
「まあミカは何度か身体に入ろうとしてたから、お主には幻聴の様なものが聞こえてきたかもしれんの」
「……そういえばありましたね」
思い返してみると、ユキさんが来た時に、ミカさんを子供みたいって思ったら「うるさいわよ!」とか、焼肉してても「やらないわよ!」とか聞こえてきた事がある。
「なんか、あんたの考えがわかったのよね……とても失礼なものだったけど」
なるほど、あれはミカさんが身体の中に入ろうとしたら、何故かわたしの思考が読めたという訳か。
「とりあえず、座るかの」
何処から出したのかはわからないが、さっきまでは手にしていなかった茶色い杖を神様が持ち、それを一振りすると雲の椅子とテーブルが現れた。
ただ対面には4席あって、わたしの方には1席なので、もしかしたら誰か来るのかもしれない。
フワフワした雲のテーブルの上には紅茶が入った白いマグカップと、お茶請けにクッキーが置いてあった。
「では、わしは、あ奴らを呼んでくる。その間にお主らで話すがよい」
神様はそう言うと、瞬間移動みたいに何処かへと消えてしまった。
とりあえず、わたしは椅子に腰掛けて、ミカさんは対面にある左端から2番目の雲に座る。
そして互いに紅茶を一口飲む。
少し落ち着いたところで、ミカさんから話掛けてきた。
「で、なんであなたがサキを育ててるの?」
「えっ? いたから? 後はかわいいし」
「わたしは見捨てると思ってたわ。知らない子共なんて育ててられるか! って……」
「そんな事できるか! あんなビクビクしてるサキちゃんを放っとけるとか、どんな鬼畜だよ!」
「……あなたがサキを見捨てれば、全部上手くいってたのよ」
「どういう事? いや、その前に、こっちからも質問していい?」
無言でミカさんが頷いたので、今まで思っていた事を聞くというか、溜まっていた怒りをぶつけることにする。
「なんで、あんなにサキちゃんはミカさんに対してビクビクしてたの?」
「たぶん、厳しく育ててたからだと思う。上手くはいかなかったけど……」
「そんなにキツくしてた訳は?」
「わたし、里子なんだ。だけど両親とは上手くいってなくてね」
(そういえばミカさんは実子じゃないって、チナツさんに聞いた事あるな)
「もしわたしに何かあれば、サキは1人で生きていく事になる。だから甘やかすよりは、自分だけで色々とできる様に育てた方がいいと思ったの」
「……ご飯がお弁当だったのは?」
「わたしが作るより美味しいから。不味いの食べるくらいなら、そっちを口にした方がいいでしょ?」
「……高級ブランド服とかが、殆ど新品同然だったのは?」
「将来、サキがお金に困った時に、高く売れる様にしてただけ」
つまりなんだ? 全てサキちゃんの為を想って色々としてたけど、その結果、ミカさんが怖がられる様になったって事か?
「あの、じゃあ……自ら死んだのは?」
「どうしてもお兄ちゃん達に会いたかったっていうのもあるけど、わたしが死ねば、まだ小さなサキは裕福な両親に引き取られて、そこで育つ事ができるから」
うーん、なんか思ってたのと違うぞ。
もっと自分勝手な理由でサキちゃんを見捨てて死んだんだと考えていたのに、まるで悪人に見えない。
それどころか、滅茶苦茶いい人なのではないだろうか?
「あれ? でもミカさんの親御さんって、サキちゃんを引き取るのには反対だったんじゃないの?」
確かミカさんの家で色々と調べていた時、それを知った筈だ。
「あの時は、まだわたしがいたからね。誰も育てる人がいないと知れば、まだ小さなサキを見捨てる程、パパとママも鬼じゃないわ。それに金銭的にだって苦労しないだろうし」
「親御さん、裕福なんだね」
「さっき、あなたがサキを見捨てれば全部上手くいっていたっていうのは、そういう理由よ」
「なるほど」
つまりミカさんって、自分の命を投げ出してもいい程に、サキちゃんを想い愛していた訳だ。
その結果、全てが裏目に出てしまい怖がられてしまったという事か……。
「あ」
「あ?」
「愛情表現が下手すぎる……」
「うるさい!」