ミカさんとの再会
「ねえ、あなた誰?」
ユキさんの言葉に、心臓が早鐘を打つ。
(まずい×3 正体を疑われてる? どうしよ×3)
「……ユキ、何言ってるの? ミカだよ」
「違う」
「ユキには、わたしがミカ以外に見えるの?」
「見えないけど……でも違う」
どうにか誤魔化そうと、自分がミカさんである事をアピールするが、ユキさんには本物じゃないという確信がある様だ。
これは不味い、どうやって乗り切ろうか? と考えていた時、スマホの着信音が鳴った。
(こんな時に誰だよ?)
家から飛び出して行ったユキさんを発見できなかった時の為にスマホを持ってきたが、こんなタイミングで鳴ると思わなかった。
しかも着信番号を見てみると、雇ってくれているコールセンターの会社からなので、無視するのも悪いだろう。
「ちょっとごめん……はい?」
『もしもし、ノガミミカさん?』
どうやら通話をしてきたのは女性である様だ。
「そうですけど」
『わたし、社長秘書をしている秋川菫と申します。急で悪いのですが、次の日曜日を空けといてくれませんか?』
「なんでですか?」
『社長が会いたがっていますので。勿論、次の日は休んでもらって構いません』
「はあ……わかりました」
『では、お昼前には迎えに上がりますので。お子様は面接の時と同じく、一緒で構いません。いえ、寧ろ連れて来てください。では失礼します』
なんかほぼ要件だけを伝えられて通話を切られたが、社長に呼ばれるとか、結構大事なんじゃないだろうか? もしかして自分が知らない間に、何かやらかしてしまったのかもしれない。
「どうしたの?」
仕事の件で考え込んでしまっていたが、もう1つの問題であるユキさんから声が掛かってハッとする。
「……何でもない」
「そうなんだ。じゃあ話の続きしよ? あなた、ミカじゃないわよね?」
「なんでそう思うのか聞いてもいい?」
「だっておかしいもの。渋谷じゃ、わたしが勧めた服を次々に買うし、メイクをする時だって大人しかったし」
「普通じゃない?」
「いつものミカならクマの着ぐるみを買う時に、わたしの顔を見て「バカにしてんの!?」とか怒鳴るもん。それにメイクしようとしたら「さわんな!」とか言うし」
元の身体の主が何を考えていたのかわからんが、まだ誤魔化せるかもしれないし、何とか言い訳をしてみよう。
「……子供ができて変わったんだよ」
「わたしも最初はそう思ったよ。サキちゃんを引き取って育ててるうちに、大人になったんだなって」
「……」
「だけど今日も焼肉する時「勝手に入ってくんな!」って、家から追い出さなかったじゃん。それに昔から化粧だってしてるのに、いきなりできなくなったとか変だし」
「……」
「後、何よりさ……サトシの話をした時って、ミカは優しいだけの男みたいに、頭を撫でて慰めたりしてこないんだよ」
「……」
何だろ? あなたは優しさだけしか取り柄が無いと言われてしまった気がする。
元男にはショックが大きいし、前世で彼女や結婚相手ができなかったのも、もしかしたらそれが理由なのかもしれない。
しかし、ここまでユキさんが別人だと確信しているのなら、これ以上は正体を誤魔化すのも無理だろう。
(これは観念するしかないな……)
ここからユキさんとの関係がどうなるかわからないが、本当の事を打ち明けた上で、仲良くできるのならしていこう。
それが無理なら、わたし達の付き合いが終わるのも仕方がないだろう。
「ねえ、もう1度聞くよ? あなたは誰? もし本物のミカなら、こういう時にする行動がある筈よ?」
「……」
「どうしたの?」
「わたし……いや……」
2人のお決まりなやり取りなど知らないのだから、もう本当の事を言うしかない。
覚悟を決めて「俺」と言おうとしたところで、身体に衝撃が走る。
思わず目を閉じてしまった後、瞼を開くと目の前には、さっきまで自分の身体だったミカさんとユキさんの2人がいた。
(えっ? なにこれ?)
ミカさんは、わたしをチラッと見たが、ユキさんは3人いる事に全く気付いてないっぽい。
一体、これはどういう事なのだろうか?
わたしが慌てていると、ミカさんの呟きが聞こえてきた。
「……もう1人自分がいるとか変な感じ」
どうやら、わたしはミカさんと同じ姿をしているみたいだ。
「ミカ、どうしたの?」
「……なんでもない。それよりユキ、ちょっといい?」
「なに?」
ミカさんはユキさんを見つめながら、いきなり相手の頬を平手打ちした。
パァン! という音だけが公園内に響く。
(え? ちょっとこの人、なにしちゃってんの?)
「いつまで泣いてんのよ! あんたがサトシと付き合うって決めたんでしょう!? ケンカくらいでメソメソするくらいなら、さっさと別れちまえ!」
「……ミカ」
「なによ?」
「ミカだあ!」
「くっつくな、うっとうしい!」
「本物だあー! 疑ってごめんね〜」
「ユキ、あんた泣くか笑うか、どっちかにしなよ。それに謝るなら、わたしじゃないでしょ」
「ぐす……うん、サトシのところ行ってくる!」
(ええ? 2人のお決まりってユキさんへ気合いを入れるビンタをする事なの? そりゃ思い付かないよ)
「じゃあね、ミカ」
「うるさい。早く行け」
「ふふ、あっ、そういえば部長がユキに感謝してたよ?」
「カツラが? なんで?」
「あの1件以来、管理職をクビになって、今は託児所で働いてるんだけど、子供達と接するうちに心が洗われたみたい。もう昔とは別人だよ。その切っ掛けを与えてくれたミカは恩人なんだって」
(なんだその知らないところでざまぁされて、勝手に改心してる奴は……)
「へー、まあどうでもいいけど」
「うん、会社のみんなもミカには感謝してるから、ちゃんと伝えようと思ってたの。じゃあ行ってくるね! ありがとう!」
「はいはい。じゃあね」
サトシへ会いに行く為に、ユキさんは駆け出して公園から出て行った。
そして残ったミカさんは、わたしの方を見つめて口を開く。
「さて、話し合いをしようか」
まさかこんな形でミカさんと再会するとは、夢にも思っていなかった。
「あの〜、わしもいるんじゃが……」
うおっ! いたのか、神様っぽいお爺ちゃん。
全然気付かなかった。
「っぽいって、なんじゃ!? 歴とした神じゃぞ!」
心を読むんじゃない、プライバシーの侵害だぞ?
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