宝といえば
わたしが着替えた服装を見て、サキちゃんが目を輝かせる。
「かわい!」
「うん、ありがとう……」
宝探しをして、夜ご飯を食べた後、どうしてもサキちゃんはクマさんと遊びたかったみたいだ。
だけど1つ問題がある。
それは、ぬいぐるみは動けないという事だ。
そしてその結果、どうなったかと言うと、わたしが渋谷で買ったクマの着ぐるみの格好をして遊ぶ事になった。
(冬用だから、めちゃ暑い……)
サキちゃんは自分から欲しい物があっても、決して「買って」とは言わない。
だけど気に入った物はジッと見つめる癖がある。
玩具のハート型パレット、クマのぬいぐるみ、それにウサギパーカーを欲しがっていたのは、すぐにわかった。
今回、わたしが着ているクマのきぐるみも、そのうちの1つだ。
ユキさんと渋谷へ出かけたのはサキちゃんが欲しがった物を買ってあげて、ウチの小さな天使を甘やかしたいというのが目的の1つだったが、まさか自分が動物の格好になるとは思ってもいなかった。
(恥ずかしい……)
いい年こいた元男が、こんな格好をするなど顔から火が出そうだが、渋谷でサキちゃんに「きにゃいの?(着ないの?)」なんて純粋な目で見られてしまっては、クマのきぐるみを購入するしかなかった。
あの日、ユキさんにニヤニヤされながら「こんなかわいい服を買うなんて、ミカも変わったね〜」とか言われた時の顔は未だに忘れられない。
いつか、あの黒ギャル、もとい、そふちょにはやり返してやろうと思う。
だけど、どうしてもクマさんの格好をさせたかったらしいサキちゃんは、わたしの着ぐるみ姿を見て満足そうだ。
「かわい!」
「ありがとう」
「クマしゃん、かわい!」
「うん……」
こんなに喜んでくれるのなら、ユキさんへの復讐も加減してあげよう。
とりあえずサキちゃんは宝探しを気に入った様なので、続きをする事にした。
「じゃあサキちゃん、今度はわたしが目をつぶって10数えるからクマさんを隠してくれるかな?」
「あい!」
せっかくなら楽しもうと目を閉じて、足音も聞こえてこない様に、耳を塞ぐ。
「……きゅ〜う、じゅ〜う。もういい〜か〜い?」
「もういーよー」
瞼を開いて部屋の中を見渡してみると、明らかにさっきまで何も無かったところに、ある物体が現われていた。
たぶん、わたしが最初に隠した時の真似をしたんだと思うけど、茶色いウサギパーカーが丸まって不自然に隅へ置かれている。
中に入ってるのが、たぶんクマのぬいぐるみだろう。
「う〜ん、どこかな〜?」
「どこきゃな〜?」
「サキちゃん、教えて?」
「だめー!」
答えはわかっているが、わたしはかくれんぼの時と同じく探すフリをする。
お風呂場やトイレに行ったり、クローゼットの中を覗いたりして適当に時間を潰していく。
ウサギが隠したクマをクマが探すなんて、傍から見たら滑稽な感じだが、そこは気にしたら負けだ。
暫く色々と見回って時間を潰したし、そろそろ探し当ててもいい頃合いだろうが、わたしにとっての宝といえば1つだ。
「あ、わかった!」
「わきゃった?」
「うん! 宝はね〜、ここだ!」
部屋の隅に置いてあるクマのぬいぐるみを探し当てず、わたしはサキちゃんを優しく抱きしめ、そのまま持ち上げる。
「サキ、たきゃら、ちあう〜」
「えー? 違くないよ。 宝物だよー」
「サキ、たきゃら?」
「うん、そうだよ〜」
抱っこをして頬ずりをすると、小さな顔から柔らかい感触が返ってきた。
「うみゅ〜」
宙に浮きながら、気持ち良さそうに目を細める小さな天使が愛おしい。
クマのぬいぐるみには悪いが、わたしにとっての宝物はサキちゃんなのだ。
まさかの宝探し続編。
読者の皆様が少しでもほっこりできれば幸いです。