宝探し
コールセンターの仕事時間が終わり、ずっと座っていて固まった身体を解そうと、大きく伸びをする。
「うぅーん、はぁ、疲れた〜」
なんか今日は珍しく忙しかったけど、渋谷に行った時に結構ミカさんのお金を使い込んでしまったので、がんばって働かなきゃならない。
勿論、給料が入ったら全額返金するつもりだ。
「おちゅかれちゃまでちた」
「サキちゃん、ありがと〜」
「かくれんぼちよ?」
「夜ご飯の準備したらね?」
「どちて?」
どうしてって、この子は夜ご飯が無くてもいいのだろうか? いや、首を傾げている様子から察するに、本当に遊べないのを謎に思ってるだけっぽいな。
サキちゃんは渋谷で買ったウサギのパーカーが気に入ったのか、購入した白と茶色の2つを毎日交互に着回している。
今日はホワイトカラーで、耳はピンクのやつだ。
「ねえ、どちて?」
遊べないのが悲しいのか、サキちゃんは体を丸くしてしゃがみ込む。
最近、ウチの小さい天使はスカートかホットパンツだったりを下に履いているが、パーカーの丈が長いので、こういう態勢になると本物のウサギみたいだ。
しかし困った。
なるべくサキちゃんと遊んであげたいが、夜ご飯の準備をしなければならない。
どうしたものかと考え込んでいると、1つの案が思い浮かんだ。
「そうだ、サキちゃん。宝探ししようか?」
「たかりゃ?」
「そうそう。サキちゃんの宝物は何かな?」
「くましゃん!」
「うん、じゃあそれを持ってきてくれるかな?」
「あい!」
遊んでくれると思ったからか、サキちゃんは凄い勢いで立ち上がり、部屋に隅に置いてあったクマのぬいぐるみを持って来た。
かくれんぼだと、お互いに探しあったり隠れたりしなきゃならないが、宝探しは夕飯の準備をしながらでもできるというのがメリットだ。
「もってきちゃ」
「うん、持ってきてくれて、ありがとう」
「しょれ、どうちゅるの?」
「準備するから、ちょっと待っててくれるかな?」
「あい!」
「あ、サキちゃんは目をつぶって10まで数えてね」
「あい! いーちゅ〜」
サキちゃんからクマのぬいぐるみを受け取り、黒いスウェットの上だけを被せて包み込む。
その後、こないだ服屋でもらった袋に入れて、クローゼットの中に放り込んだ。
「ぢゅ〜う! もういいきゃ〜い?」
「もういい〜よ」
サキちゃんは隠れんぼと同じ様な遊びだと思ったのか、ちゃんと10まで数えて確認してきた。
「みちゅけた!」
目の前にいた、わたしを見て思い切り指差すサキちゃんだが、それは探す対象が違う。
これは最初にルールの方を教えるべきだったかもしれない。
「えっと、サキちゃん、違うよ。クマさんを探すんだよ」
「くましゃん」
「そうだよ。ほらクマさんが居ないでしょ?」
「もりかえた?」
「森には帰ってないよ。隠れてるんだよ」
「どちて?」
「サキちゃんと、かくれんぼしたいんだって」
「くましゃんとあそびゅ!」
宝物のクマさんと遊べるのが嬉しいのか、顔を輝かせるサキちゃん。
その笑顔が純粋すぎて、とても眩しい。
ウサギがクマを探すとか変な話だが、楽しんでもらえれば、それでいい。
「じゃあ、クマさんは隠れたから探してあげて」
「サキ、おに?」
「うん」
「しゃがす!」
そう言って、サキちゃんはクマのぬいぐるみを探し始めた。
「くましゃんとかくれんぼー!」
厳密には宝探しなのでゲームが違うが、楽しんでくれているようだ。
「さて、夜ご飯の準備しよう」
夕飯を食べ終わったらサキちゃんに熊を隠してもらって、本当の宝探しを教えてあげればいいだろう。
そう思って台所で冷蔵庫から材料を取り出していたら、部屋の中から「みちゅけた!」という声が聞こえてきた。
「はやいよ……」
このアパートは、かくれんぼや宝探しには向いていないみたいだ。
いつかサキちゃんも自分の部屋を欲しがるだろうし、早目に引っ越した方がいいかもしれない。
「つぎ、くましゃん、おにぃ〜」
「サキちゃん、それは無理だから!」
どうやら夜ご飯より、宝探しのルールを教える方が先みたいだ。