ソフトクリーム
ハチ公を撫で回した後、ユキさんが勝手に予約していた渋谷にある美容院へ行く事になり、わたしは髪色を染め直した。
少し前まではプリンヘアみたいになっていたが、今は根元から毛先まで綺麗なシルバーアッシュだ。
店内で美容師のお姉さんに「冬木さ〜ん」と呼ばれた時は誰の事かと思ったが、ユキさんの名字らしい。
名前も雪だし、イメージだけで言えば色白の美人を想像しそうだが、現実はメイクをバッチリした黒ギャルだ。
髪を染めている時はサキちゃんが暇になるのではないかと思ったが、ユキさんが店内に置いてあった絵本を読んだりスマホで動物の画像なんかを見せたりと、上手くフォローしてくれた。
美容院で染め直しが終わったら、今度は3人で服屋に行く事になり、今は子供服が売っている店で色々と物色している最中だ。
「あ、暑い……」
「スウェットなんか着てるからだよ〜。せめてもう少し薄い生地の服買えば? あ、これかわいい! サキちゃんはどっちがいい?」
「こっちぃ!」
スウェットのせいもあるだろうが、まだ春だというのに、今日は夏みたいに気温が高い。
「こっちか〜。クマさんが描かれてるから?」
「あい!」
「あ、暑い……」
「じゃあここで子供服買ったら、ミカの服も見に行こうよ。着てるの変えれば少しは涼しくなるでしょ」
隣にいるのが冬木雪という寒い季節を感じさせる名前の人間なのに、日サロで焼いた肌をしている黒ギャルのせいで、もう夏なのではないかと勘違いしてくる。
暫くサキちゃんで着せ替えを楽しんだ後、子供服を何着か購入し、今度は大人服が売っている場所へと向かう。
まあ目的のお店につく前に、ある所に寄って色々と買う事になったが……。
何がとは言わないが、何故上下ヒョウ柄ピンクを購入しなければいけなかったのか。
その他にも夜に着て寝れば、ある物の形が崩れないナイトなんちゃらとか、肩こりが楽になる矯正なんちゃらとか、色々とユキさんに選ばれて買う事になった。
え? ヒョウ柄? 着けたよ、ちくしょう! だって黒ギャルが「何も付けてないとか、あり得ないから!」って、うるさいんだもん。
「お、似合うじゃ〜ん。ミカ、それ買いなよ」
お店に着くと、何故かユキさんが選んだ服を持たされて試着室で着替える事になった。
「なんかスースーする……」
着せられた服は、肩から二の腕近くまでが露出した白黒の千鳥柄で、背中と前は肩紐で繋いでいる様な感じだ。
襟、裾、袖口には黒いラインが横に一本入っている。
下はデニム生地で紺色のホットパンツ、靴は春夏用のロングブーツが売っていたので、それを購入した。
後はハートの形をしたピンクダイヤのネックレスが売っていたので、それも買った。
少し可愛らしすぎるアクセサリーだが、購入すると熊のぬいぐるみが付いてくるので、それを欲しがったサキちゃんにプレゼントしたのだ。
(そういえば、この身体になってから、初めてお洒落した気がする。……女物だけど)
とりあえず一通り揃えて、着替えたまま、お店を出る事にした。
「さっきよりは涼しい……」
「だからスウェットのせいだってば。まあ確かに暑いけど」
「あちゅい!」
着ていてたスウェットは店員さんに貰った袋に入れて持ち歩いているが、ここまで揃えたのならバッグも買った方がいいのかもしれないなと考えたところで、サキちゃんが暑がりだした。
さっきよりマシになったから多少は涼しく感じていたが、やっぱり今日の気温は高いみたいだ。
「サキちゃん、暑い? ならソフトクリーム食べに行こうか〜?」
「そふちょ?」
「ちょっとミカ、あんたまさか……もしかしてサキちゃんにソフトクリーム食べさせた事ないの?」
「……ないかも」
「信じられない!」
ユキさんにソフトクリームを食べに行こうと誘われ、未だに首を傾げているサキちゃん。
その姿を見て、そういえばアイス屋とかには連れて行った事がないなと思い当たった。
「そふちょって、なに?」
「ん〜、ソフトクリームは冷たくて美味しい食べ物だよ。今日はユキお姉さんが奢ってあげよう」
「ちゅめたい?」
「うん、後は甘いよ〜」
「あみゃい!」
「食べる?」
「たべゆ!」
とりあえず3人とも暑がっているし、少し涼を取ろうとソフトクリームが売っているお店へと、ユキさんの案内で向かう。
「じゃあ、次はサキちゃんを抱っこするのミカの番ね」
「そうだね。おいで」
「あい!」
ウチの小さな天使を見守りながら歩くのもいいが、それでは時間が掛かってしまうので、今日はユキさんとわたしが交互に抱っこして移動している。
「着いた〜。ここだよ」
「ぴんきゅ!」
ユキさんに案内されて着いたのは、原宿で営業している、お洒落で可愛すぎるカフェだった。
外で買って食べる様なのを想像していたから、これは予想外すぎる。
だって店内が全部ピンクなんだもん。
「……」
「ミカ、どうしたの?」
「……なんでもない」
「ぴんきゅかわい!」
(今は女だと、自分の心に言い聞かせよう)
サキちゃんはピンクが好きなので、お店の内装にも喜んでいるが、最近女性になったばかりの、おれ……いや、わたしには少し恥ずかしい。
だが、ウチの小さな天使の為だと思えば、そんなのは些細な問題だ。
「よし、行こうか!」
「あはは、なんで気合い入れてるの? ミカってば、変なの〜」
お店に入り、ピンク色をした椅子が4つある席に座る。
わたしとサキちゃんが横に並び、向かいにユキさんという形だ。
メニュー表から食べたいソフトクリームを各々選び、店員さんを呼んで注文した。
暫くすると、お洒落なティーカップ3つにバニラ、ストロベリー、ミックスと、それぞれが頼んだ物が運ばれてきた。
「ほらサキちゃん、食べてみな〜。ユキお姉さんのお勧めだよ」
「いたたちまちゅ」
そう言ってスプーンを掴み、ストロベリーのソフトクリームを掬い、自分の口へと運んでいくサキちゃんは食べると目を輝かせた。
「ちゅめたい!」
「うんうん〜、冷たいね〜。どう? 美味しい?」
「あみゃい!」
「甘いか〜。サキちゃんは食べてる時も、かわいいなあ。ねえミカ、この子ちょうだい!」
「ダメ!」
急に何を言い出すんだ、この黒ギャルは? ウチの小さな天使を他の誰かにやってたまるか!
「ちゅめたい! あみゃい!」
わたしとユキさんが睨み合っていると、隣から幸せそうな声が聞こえてきた。
「おいちい!」
どうやらサキちゃんはソフトクリームが大好きになったみたいだ。




