それで良いわけがない
いやいや、女性と付き合った思い出すら無いのに、いきなり子持ちになるとか、どういうことだよ?
こっちを見ている女の子の髪は肩くらいまで伸びていて、目も大きく愛らしい顔をしている。
将来は凄い美人になりそうだ。
いや、今はそんなことよりも、俺の方を窺っている女の子の様子を見るに、何か言いたいことでもあるんじゃないだろうか?
とりあえず聞いてみよう。
「え〜と、どうしたのかな?」
「お、おなかがちゅきまちた。なにゅかあしゃのおべんちょうをくだちゃい」
(まだ言葉が辿々しいな。要はお腹が空いたからご飯を食べたいってことか……ん? お弁当? 朝から?)
嫌な予感がした俺は慌てて飛び起き、台所近くにある冷蔵庫の扉を勢いよく開ける。
(ビールしか入ってねえ!)
辺りを見回してみると、スマホや有名ブランドのバッグや服が転がり、テレビの上にはタバコがカートンで積んであった。
(こんなもん買うより、米とか野菜を購入しときやがれ!)
神様っぽい人がいた所で会った女性に怒りが湧いてくるが、今はそれよりも俺や女の子の飯だ。
(流石に金はいくらかあるだろうな!? 無かったら服やバッグを売りに行くところから始めなきゃならんぞ!?)
部屋を見渡し、目に入った茶色いブランドバッグの中を探ってみると、これまた高級そうな財布が出てきた。
(よかった、十万は入ってる。でもこの女、もしかして借金とかしてねえだろうな?)
あ、やばい。
女の子が不安そうに見てきてる。
そういえば、この子の名前は何て言うんだろうか? でも一緒に暮らしてるのに聞く訳にもいかないよな。
急にそんなことを身内から言われたら、女の子だってショックが大きいだろう。
「あちゃごはんはありまちぇんか? ちゅみでおとなちくちてます」
(朝ごはんはありませんか? 隅で大人しくしてますかな? え? なんでそんなことを言うの?)
こんな小さな子供がお腹を空かせてるのに、部屋の角で必死に我慢させるとか、あの女、それでよかったのかよ? 本当に腹が立つ。
だって、それで良いわけがないだろう!
「えっと、一緒に買いに行こうか?」
え? 精一杯の笑顔を作って言ったつもりなんだけど、なんで固まってるの?
「いっちょにいっていいんでちゅか?(一緒に行っていいんですか?)」
「もちろん!」
ほんと、どういう生活してたんだよ。