小さな天才画家
なんかもう主人公がサキちゃんになってるのでは?
今日も俺は、在宅コールセンターの仕事をしている。
現在も営業をかけた会社と通話中なのだが、業務とは全く関係の無い話ばかりされ、少し疲れてきた。
『いいじゃん。今度遊ぼうよ〜』
「そういうのは、お断りしていますので」
『お姉さん、声かわいいし、会ったら楽しく遊べると思うんだよねー!』
「あの〜、この会話って録音されてるんですよね? 会社の人に怒られるんじゃないですか?」
『大丈夫、俺とお姉さんが上手くいけば問題なし!』
何か有った場合に備えてだろうが、電話が繋がる前に機械音声で『この会話は録音されています』と警告メッセージが流れていたのだが、こっちは気にしても、向こうの社員には関係無いみたいだ。
『ねえ、遊ぼうよー』
「あはは……」
その後も色々としつこかったが、どうにか男との会話を無事に終え、俺はヘッドセットを頭から外した。
「女って大変なんだな……」
まだお昼前だというのに、既に似たような会話を数件している。
「男って、本当にロクなのいねえな」
いや、今の身体的特徴を除けば、元々は俺も同じ生き物ではあるが、こんな目に遭ってしまえば女性を尊敬する気持ちが強くなるってものだ。
仕事ではヘッドセットをしている為、相手の男が喋っている内容を、サキちゃんに聞かれてない事が唯一の救いだろうか。
「よし、お昼の準備しよう」
レタス、キュウリ、トマト、コーンを乗せたミックスサラダとオニオンスープを作った後、パスタを茹でて麺にミートソースをかける。
出来上がった料理を、大人と子供用の食器に分けて乗せていく。
「うん、美味しそうだ。2日前からソースを仕込んどいた甲斐があるな。サキちゃーん、お昼できたよー」
あれ? いつもこの時間に匂いがしたりすると「おちる?」と言って台所まで来たりするのに、全く反応が無い。
どうしたんだろうか? と思い、部屋の中を見てみると、そこには小さな画家が誕生していた。
俺が仕事をしている間、テレビやDVDを見て待っているだけじゃ暇だろうと思い、ぬり絵と食べても安全なクレヨン、それに折り紙などをネットで買ってみた。
そして今、サキちゃんは、お絵描きに夢中になっている。
「……」
「……」
集中しているサキちゃんを、黙って見つめる。
「できゅた!」
近くで見守ってから描くのを終えるまで、掛かった時間は5分くらいだろうか? やっと満足のいく絵が出来上がったらしい。
顎に両手を当てながらしゃがみ込み、黙って見ていた俺と、サキちゃんの目が合う。
「あ、ご、ごめなちゃい」
「なんで謝るの?」
「かペに……」
「壁に描いたから?」
「あい……」
きっと子供特有の考え方なのかもしれないが、大きな壁に絵を描いてみたらどうなるんだろう? という感じにでもなったのだろう。
怒られる怖さより、ワクワクした気持ちが勝ってしまったのだ。
それでもミカさんという顔の前で、ここまでの行動ができたのは1つの成長だろうから、俺は怒らずに褒めて伸ばそうと思う。
だからといって、何も考えない子に育ってしまったら困るので、直した方がいい部分は優しく教えた方がいいのだろうが、それはもう少し先でもいいだろう。
「上手だねー」
「ちょうず?」
「うん、これはウサギさんだよね?」
「しょう!」
「かわいく描けてるよ。こっちは?」
「おあな!」
「お花か。なんで黒いの?」
「ちゅかいちゃかた!」
「使いたかったのか〜。かっこいいお花だね」
「ありあと!」
頭を撫でて褒めると、サキちゃんは満足そうな笑顔になる。
「お昼できたから食べようか?」
「おちるなに?」
「ミートソースだよ」
「やっちゃ!」
賃貸だからサキちゃんが描いた絵は消さなきゃいけないけど、もう数日は残しておこう。
それにカメラで撮ってパソコンにも保存しようと思う。
なんたって、うちの小さな天才画家の始まりかもしれないしね。
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