思い立ったが吉日
妊娠が発覚してからというもの、ハル達が過保護だ。
昔に住んでいた6畳のアパートから豪邸と呼ばれるくらいの家にまで引っ越し、会社経営も順調、サキちゃんというかわいい娘がいて新しい子どもまでできる。
こんなに幸せでいいんだろうか? とは思うし、変に贅沢を言ったら罰が当たるというものだろう。
しかし、それでも……。
「ヒマだ……」
平日の昼間、ハルとスミレさんは会社へ働きに行き、サキちゃんは保育園に通う。
そうなると、いつもは自然とソーちゃんと2人きりになるのだけど、今日は用事がある為に天界へと帰っている。
みんなから「「「「無理はしないように(ちちゃダメ)」」」」と口を酸っぱくして言われまくり(サキちゃんは周りに釣られているだけかな?)1人ソファーの上でだらけているけど、いい加減に飽きてきた。
「よし! 妊娠中でも少しは動いた方がいいって聞くし、散歩にでも行こう!」
誰かがいれば広すぎる庭を歩くだけでもいいんだけど、流石に1人では寂しすぎる。
公園とかでいいから、人の声を聞きたい。
「思い立ったが吉日。即行動すべし」
もはや誰に向かって言ってるのかわからない宣言をし、わたしは財布にスマホなど最低限の荷物をバッグに入れて外へと向かった。
「〜♪」
久々の外出なので、自然と出た鼻歌交じりに道を歩く。
(服でも見に行こうかな? サキちゃん達にお土産も買おうっと)
周りからは誰かが友人と喋る声や車のエンジン音などが聞こえてくる。
「これこれ。良い喧騒だね」
これが日常なら騒がしいと感じるだけだろうけど、最近じゃ非日常にすら思えてしまう。
いや、みんながいる時間は賑やかだから、逆に1人でいると余計に寂しくなるんだろう。
「喉乾いたな。なんか飲もっと」
たぶんソーちゃんあたりが何かしているのだろうけど、妊娠してから未だに味覚は変わっていない。
寧ろ「食べたい物があるのなら、今のうちに口にしときなさい」とか言われてしまった。
どこか悲しそうな表情だったのが気になるけれど、きっとソーちゃんにも色々あるんだろう。
まあ赤ちゃんの毒になるような物を食べる気はないけど、口にしても平気だとは言われている。
女神様々だ。
「自販機あるし水でいいかな?」
小銭が無かったので財布から千円札を取り出し、投入口へと入れる。
「あれ? 飲み込まれた?」
自販機のボタンも光らず、お札は消えていった。
「おっ、電子マネーも使える」
千円札が消えていった悲しさが残っていたけど、こういうこともあるし仕方ない。
故障かもしれないから、後で自販機の設置会社には連絡するとしよう。
「水、水っと」
商品ボタンを押して、電子マネーの読み取りパネルへとスマホを当てる。
ガチャン!
「よし、今度は買えた」
ティリリリ〜♪
変な音がした方へと目線をやってみると、赤い数字が1〜9で形を変えながら表示されている。
どうやらアタリとハズレのある自販機だったらしい。
『7777』
「あ、当たった」
しかし困った。
サキちゃんとかあげる相手もいないし、もう一本飲み物があっても荷物になるだけだ。
「どうしようかな?」
捨てる訳にもいかないのでバッグに入れて持ち歩くしかないのだけど、なんとなくいつもの癖で誰かを探してしまう。
そして少し距離のある後方に制服を着ている人影が2人。
高校生の男女だろうか?
黒髪だけど毛先だけ白くて、灰色の瞳をしている男の子。
何故か呆然としていたので、女の子の方へと視線を移してみる。
彼女も男の子と同じく黒髪だけど、毛先は金髪で瞳も金色だった。
(そうだ。新しい飲み物を買って2人にジュースを渡せば荷物問題は解決するんじゃ……?)
金色の瞳と目が合う。
「あの……」
急いで何が飲みたいか聞こうと、女の子に声をかける。
「ひぃっ!」
女の子は悲鳴をあげた。
なんで?




