貯金の大切さ
何度も年齢を連呼していたサキちゃんは、とうとう俺が何も聞かなくても、自分から「3ちゃい!」と言う様になった。
「はぁ、はぁ、あー、かわいじぬ(可愛すぎて死ぬ)」
「かわじ?」
「ううん、なんでもないよ」
首を傾げながら言葉の意味を聞いてくるサキちゃんを見て、物凄く心が癒やされる。
これなら、さっきまでしていた仕事の疲れも吹っ飛ぶというものだ。
(自分の年齢の事とか理解してるのかな? そうだ!)
ふと思い立った俺は、ミカさんが使っていたであろう有名ブランドの財布を開き、100円玉を3つと千円札を1枚取り出して座っているサキちゃんの前に置いた。
「おちゃいふかわい」
「うん? お財布かわいい? サキちゃんピンク好きだもんねー」
「あい」
薄ピンク色をした財布を見て、目を輝かせながら指を差すサキちゃん。
「これちゅき」
何度も買い物をしてる時に見ている筈なのに、ずっと財布には興味津々の様だ。
元男の俺からしたら可愛らしすぎるが、物に罪は無いので、有り難く使わせてもらっている。
「いや、違う。見て欲しいのは財布じゃなくて、こっち」
「こり?」
「そうこれ。サキちゃんへのお小遣い」
「おこぢゅかい……」
「そうだよ。お菓子が買えるよ」
「おかち?」
あれ? 前に「欲しい物があってもワガママいっちゃダメ」とか言ってたから、買い物にはお金を使うって理解してるもんだと思ってたけど、違うのかな?
うん、未だに首を傾げているし、これはまだよくわかってなさそうだ。
俺は部屋の隅に転がっているハート型のパレットを手に持ち、サキちゃんの元へと持って行く。
「えーとね、これがもっといっぱい買えるよ」
「もっちょいっぱい?」
「うん。ちょっとスーパーごっこしようか」
買い物を理解してもらう為に、俺が店員になり、お客さんはサキちゃんにしてもらって少し遊んでみる。
「千円お預かりします。5百円のお返しになります」
暫く遊んでみると、買い物に行った時の事を思い出したのか、何となくだがサキちゃんは理解した様だった。
「わかった?」
「あい?」
「千円の時はお釣りがあって、お菓子が買えたけど、300円の時はお金が足りなかったよね?」
「うみゅー」
このハート型のパレットが付いているお菓子は500円するので、300円ではお金が足りないところまで真似したけど、まだ流石に全てを理解するのは難しいか。
まあこれから計算とか覚えていくだろうし、焦る必要もないだろう。
「で、サキちゃんは300円と千円のどっちが欲しい?」
「おこぢゅかい? くれりゅの?」
「うん、そうだよ。どっちがいいかな?」
「3びゃくへん!」
「そっかー」
どうやらサキちゃんは3という言葉が好きなだけな様だ。
お金の価値を理解していたのなら、たぶん千円の方を選んだと思うし。
「うん。じゃあこの3百円はサキちゃんにあげるね」
「ありあとー」
このお金をどうするのかな? と様子を見ていると、サキちゃんはテレビと台の隙間に隠していた。
どうやら、貯金の大切さはわかっているみたいだ。
お金を隠し終わって、俺の近くへと戻ってくるサキちゃん。
「とっちゃタメたよ」
「大丈夫。あれはサキちゃんのお金だからね。盗らないよ」
少し信用されてないみたいで悲しいが、お金を大事な宝物と思ってくれたということだろう。
今度、かわいい貯金箱か財布でも買ってあげよう。
勿論、色はピンクだ。