サキちゃんのいたずら
リビングのソファーに座り、優雅なティータイ厶を過ごしていると、2階からソーちゃんと手を繋ぎながら階段を降りてきたサキちゃんに「ママ!」と元気よく声を掛けられる。
「うん? どうしたの?」
黒のとんがり帽子に同色の長いローブ、もうハロウィンは過ぎたというのに魔女っ子の格好をしている我が子。
いや、本当にどうしたの?
(そういえば会社で余ってた魔女コス衣装を購入してたなあ)
大分前に、この服をサキちゃんに合わせたらかわいいんじゃないの? とか考えて持ち帰ってきたのだ。
当時はハロウィンが過ぎていた為、魔女コス衣装を着せる機会を逃してしまっていたんだけど、今更見れるとは思ってもいなかった。
しかも少し元気になった子猫のモモがサキちゃんの後をトテトテと付いて歩いてきている。
片手にホウキではなくハタキを持った娘が守る対象なのか守られる御主人様なのかは気になるけど、なんか立派な魔女っぽい。
白茶の体毛だし黒猫ではないけど、細かいことは置いておこう。
「ママ、とりあとりーと!」
「トリックオアトリートか〜。う〜ん、どっちにしようかな〜?」
迷ったフリしてソーちゃんに視線を投げる。
〘なんでこうなったの?〙
〘サキに絵本を読んであげてたらハロウィンって何? と聞かれて〙
〘なるほど〙
きっと絵本の中にハロウィンが出てきて、ソーちゃんが内容を説明したというところかな。
〘そうそう〙
〘ソーちゃんだけに〙
〘うるさいわよ〙
そして今までハロウィンをしたことが無いサキちゃんは魔女っ子の格好をし、お祭りを始めだしたということだろう。
(というか女神の前で他国の宗教の祭事とかしていいのかな?)
〘人間が作ったものだし別に気にしないわよ〙
〘オッケー〙
まあ別に今日はハロウィンでもないし個人で勝手にやってるだけなんだけどね。
ソーちゃんとのアイコンタクトを終わらせ、わたしは冷蔵庫へと行く。
「サキちゃん、チョコレートでいい?」
「いいよ」
「そっか、じゃあ冷凍庫にチョコレートが入ってるから、これサキちゃんに上げるね」
「わーい、ありあと!」
小さなショートケーキ型のチョコレートをハルにもバレないよう冷凍庫の奥の方で冷していたというのに、まさかサキちゃんに持っていかれるとは……。
「ソーねえちゃ、とりあとりーと!」
「え? わたし!?」
どうやら次の標的がソーちゃんに移ったみたいだ。
「あ、クッキーがあるよ! これあげる!」
何処からか取り出したのか、何も持っていなかったソーちゃんの手へと現れる高級クッキー。
「やっちゃ〜。ソーねえちゃ、ありあと!」
「いえいえ、どういたしまして」
お礼を言うサキちゃんに笑顔で応じるソーちゃん。
一見、平和な光景だけど、わたしには尋ねたいことが出来てしまった。
「ねえ、ソーちゃん。昨日お菓子を仕舞ってる引き出しから高級クッキーが箱ごと無くなってたんだけど……」
「え!? な、なんのことかしら?」
「サキちゃんに渡してたクッキーが無くなった物とソックリなんだけど……」
「……」
創造神が焦って汗を流しまくっている。
なんて人間くさい女神だ。
「ただいま」
「ただいまです」
「あ、ほらミカ、ハルとヴィオレータが帰ってきたわよ」
「おかえりぃ〜」
如何にも助けられたという感じでサキちゃんと一緒に出迎えにいくソーちゃん。
後で説教だ。
「パパ、とりあとりーと!」
「おっ、ハロウィンごっこか? プリンあるぞ」
「わーい!」
しかし、みんなサキちゃんにお菓子をあげるだけでイタズラの方を選ばないな。
「すみれねーちゃは?」
「え? え〜と、お菓子持ってないんでイタズラしていいですよ?」
勇者が現れた。
いや愚者かもしれない。
そういえばサキちゃんは夢中になった結果としてイタズラみたいになったりはするけど、自ら悪事を働くのは見たことがない。
一体、我が子はどんな悪ふざけをするのだろう?
「さあ、どうぞイタズラしてください!」
両手を広げ、いつでもどうぞと構えるスミレさんにサキちゃんはどうするのか?
「すみれねえちゃ」
「はい、なんでしょう?」
「わるいことちちゃめっなんだよ(悪い事しちゃダメなんだよ)」
サキちゃんに道徳を教えられるスミレさん。
「で、ですよね」という返答するところを見た周りのみんなが口を抑えて吹き出すのを我慢していたのは言うまでもないだろう。




