わたしや!
リビングの中でゴロゴロと音が鳴り、仁王立ちしているわたしが目を見開くと、偽物の雷が落ちる。
「ハル、そこへなおりなさい」
正しく座れと言ったところで互いにソファーへ腰掛けるだけなのだが、雰囲気は大事である。
勿論、稲妻も雷鳴もソーちゃんの演出による偽物だし、窓の外は晴れている。
「ハル、あなたサキちゃんに何をしたの?」
「いや、普通に遊んでただけだろ」
「まあ! 言うに事欠いてフツーですって! この男は!?」
ドッカーン! と白い稲妻が落ちる演出音再び。
因みにサキちゃんは、自分の部屋で昼食を美味しく食べている最中です。
なんか子供ってミートボール大好きだよね。
今日は休日なのに、家の中でお弁当食べたいって言うからママは張り切って作ったよ。
それなのに……。
「いいハル? わたしは朝からサキちゃんに『絵本読んで〜』と言われれば即座に読み『お弁当作って〜』と言われれば作る。それも耳かきをしたり頭を撫でたりするサービス満載付きで!」
「甘やかしすぎだろ」
「ええい! 黙らっしゃい!」
窓辺にいたソーちゃんがゆっくり歩いてきて、わたしの手に印籠代わりの絵本を持たす。
「これが目に入らないってゆーの!?」
絵本を掲げるわたし、呆れた表情のハル。
「大体、なによこれは!? 幸せな王子様と結婚するストーリーとか、どんな洗脳教育よ!」
「それは俺じゃなくて、ミカが買った本だろ」
「ねえ、あなたにわかる? 『将来はハルと結婚する〜』とか、最愛の娘に言われたわたしの気持ちが……?」
「聞けよ」
「なんか言うてみい!?」
「さっきから言ってるんだが……」
いつもなら家族と女神揃って食事するのに、今日に限っては「おへやでたべりゅ〜(お部屋で食べる)」とか言って、自室に行ってしまったんだよ!?
成長期なの? 反抗期なの? ママにはわからないよ!?
まあスミレさんが付いてるんだけどね。
「「「アホだ……」」」と呆れた表情の3人の声がする。
お弁当箱を下げに来たスミレさん、ソーちゃん、ハルと同時に呟いたみたいだ。
「あのなミカ、子供なんてそんなもんだろ。サキだって将来は俺達以外の家に嫁ぐだろうし……」
「あー、あー、聞きたくありません!」
ハルのボケェ! 何言うとんねん。
今は多様性の時代なんやから、男とか女とか、わたし以外とか関係ないねん。
つまりサキちゃんが、うちに嫁ぐのも自由ってことや。
「おいミカ、耳を塞ぐな」
よし、今日は辛い物祭りや。
なんとしてもサキちゃんに「ママのお嫁さんになる」と言わせなあかんからね。
「なあソーちゃん、ヴィオレータ。ミカが情緒不安定なのは妊娠の影響なのか?」
「これは元からね。生まれ変わっても残念な人なのよ」
「ミカさんですからね」
なんか色々と失礼なことを言われてる気がするけど、今はそんなのに構ってる場合じゃない。
まずはサキちゃんの大好物を作って、夕飯時にいくら顔が良くても裏で暗躍するタイプの男とは結婚しないよう言い聞かせなきゃ。
大体、そんな人と結ばれる人間がいたら見てみたい……って、それ、わたしや!
そしてまた、絶好のタイミングで雷が落ちた。




