違和感
家の庭、上を見あげれば空に浮かぶのは7歳幼女姿のソーちゃん。
対峙しているのは長い黒髪に同色の瞳をし、何故かOLが着る事務服姿の格好をしている背が高い和風美人。
年齢は20歳くらいだろうか? 白いYシャツにチェックのベスト、黒スカートという動きにくそうな服装なのに人間の目では追えなくなりそうなくらいの光景が上空では繰り広げられている。
右ストレートを7歳の女の子に遠慮なく繰り出す和風美人。
ここだけ見れば幼女虐待だが、その幼女であるソーちゃんは飛んできた右拳を左手で軽く受け流す。
和風美人、右、左、右、左と連続ワン・ツー。
一方、ソーちゃんは顔を振って拳を避け、最後の左に合わせてカウンター狙いで右足の蹴りを放つ。
(あ、もう見えないしわかんないや)
段々と2人の速度が上がり、人の目では完全に追えなくなったので、わたしは下に倒れている友人をどうしようか? と悩む。
(ハルはサキちゃんと公園に行っちゃったしな)
「しょうがない。スミレさんを呼ぶか」
スマホを持ち、トークで説明するのも面倒なので電話を掛ける。
『あれ? ミカさん、どうしたんですか? 通話なんて珍しいですね』
『お宅の関係者達がカレコレ3時間くらいウチの空でケンカをしてます。引き取りに来てください』
『えっ? えっ?』
『簡潔に説明すると遊びに来たユキが死にました』
『はいっ!? 意味わかりませんけど!?』
それはこっちが言いたい。
──話は数時間前に遡る──
新居に引っ越したということで、お土産のケーキを持って、わたしとソーちゃんがお茶をしている場所へ現れた黒ギャルこと友人のユキ。
「やっほ〜。ミカ、遊びに来たよ〜」
「いらっしゃい」
「この家、庭だけでも広いね〜。ここまで来るのに時間が掛かりすぎちゃっ……『チェストー!』ぐへぇっ!」
ユキの姿を目に入れたソーちゃんが、わたしの椅子から飛び上がり、掛け声と共に何処から出したのかわからないピコピコハンマーで彼女の頭を叩く。
「えっ? ちょっ、なにしてるの!?」
仰向に倒れたユキとソーちゃんの行動に理解が追いつかず焦った声が出る。
「大丈夫よ。ちょっと死んでるだけだから」
「はい?」
それって、全然大丈夫じゃないよね?
わたしが言葉を口にするより先にソーちゃんが倒れた黒ギャルの頭から何かを引っ張り出す。
「んしょっと」
「えっ? なにこれ? 誰?」
「え? ユキよ?」
「いや、それはわかるんだけど、それも違うっていうか……」
幽体みたいなものだろうか? それは半透明なユキだったけど髪色が青い。
ソーちゃんが瞼を無理やり開ける。
瞳も青い。
「ふむ、やっぱりね」
「ソーちゃん、どうしたの?」
「この子、人間と女神のハーフだわ」
(???)
「道理で人間にしては知能が高いと思ったわよ」
ユキが人間と女神のハーフ?
急展開すぎて追い付けないんですけど?
「わたしの娘の命を奪ったのは、お前等かー!!!?」
怒声が聞こえて振り返ると、そこには鬼どころか悪魔のような形相をした女性が立っていた。
「死ぬ前にも、死んだ後にも、生まれ変わっても後悔させてやる!」
殺気と共に殴りかかってきたので、ソーちゃんが上に蹴り上げ、そこから上空で2人の戦闘が始まった。
『まあ、そんな訳で、なるべく早くスミレさんには来て欲しいと思ってる』
『……すぐ向かいます』
通話でスミレさんに和風美人さんの特徴を教えると、彼女はソフィアさんという名前で女神だそうです。
3時間も観戦してるんじゃなかった。
まあ、のんびしてたのにも理由があるんだけどね。
『ああ〜、やっぱり、この身体だとケーキ食べれないよ〜』
「ねえユキ、目の前に自分の死体が転がってるんだから、もう少し焦ろうよ」
幽体? になった黒ギャルは、この身体でお茶を飲もうとしたりケーキを食べようとしたり、色々と試行錯誤していた。
途中で意識がハッキリしたからって、普通テーブルに座って母親のケンカ眺めるかな?
お陰でスミレさんに連絡するのが遅くなっちゃったよ。
どうでもいいけど、青髪青目のユキは違和感が凄いよね。
なんか気付かないうちになろうが変わってました。