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 ひらひらと、砕けた破片が散っていく。

 砕けた破片が大気に溶けていくのを、優人はぼんやりと眺めていた。

 あの暗い空間から抜け出した瞬間、突然大きくなった身体と一変した装備に、眼前には巨大な蛇と、急展開も良いところだったが、不思議と困惑はなかった。

 ただ、目の前の蛇が倒すべき敵であることが、ぼんやりと靄が掛かったような思考の中でハッキリとしていた。

 

 蛇との戦闘は壮絶の一言に尽きるものだった。

 思えば、あれは生みだされたアビスが滅ぼされまいとする最後の抵抗だったのかもしれない。


 ふと、視界を巡らせると不思議なものが目に入った。

 翡翠色をした人型の群れだ。

 中心に大きさの違いはあれど、アビスと同じ紅いコアを抱えている。


(新型のアビス?!)


 そんな姿のアビスが、自分の周りに沢山存在している。


(アビスは、全部倒さないと)


 右手に持った剣を振り上げる。

 翡翠色のアビスたちが、驚いたように飛び散る。


(散開されると厄介だ)


 逃げようとするアビスたちを追いかけようとした時だった。

 中心に一際大きなコアを抱えた人型アビスが3体、飛び出してきた。


(なんだ、こいつら?)


 3体は攻撃をするでもなく、何かを訴えるように震えるばかりだった。


(何もしてこないってんだったら好都合だ!一息に……)


 と、振り下ろそうとした剣が止まった。

 不思議に思って見ると、自分の左腕が持っていた盾を投げ捨てて右腕を押さえていた。

 離そうとしても、自分の意思が通じないかのように左腕は動かせない。


 それを見た人型アビスたちが更に震える。


(一体何が……)


 その時、ふわりと風が駆けた。


━━━━自分の、“失いたくないもの”を思い浮かべるんだ。


 その声が聞こえた瞬間だった。

 脳裏に、木乃香たちの姿が浮かんだ。

 それと同時に、思考にかかっていた靄が吹き飛ばされ、思考と視界がハッキリとしてくる。

 翡翠色に見えていた人型は、次々と沢山の色が重ねられたかと思うと、その姿を一変させた。


「優人くん!目を覚まして!」


「兄さん、私です!分からないんですか!」


「ゆーくん、しっかりして!」


 浮かび上がってきたその姿は、自分が失いたくないと思い浮かべた木乃香たちだった。

 今さっきまで自分がやろうとしていた事に、背筋が凍る。


「お、れは……なんて事を、しようとしてたんだ……」


 木乃香たちは、そんな俺の言葉を聞いて安心したように表情を綻ばせる。


「良かったぁ」


「もう、本当に仕方のない兄さんなんですから……」


「全くや……ま、信じとったけどなぁ」


 殺されかけたというのに全く気にしていない様子の木乃香達に、入っていた力が抜けていった。


「それにしても兄さん、この姿はどうしたんですか?ピラーの中で一体何が……」


「それが、俺も気づいたらこんな姿だったんだけど……」


 それから優人は、ピラーで木乃香たちとはぐれてからの事を話した。

 暗い空間のこと、ダアトと話したこと、ついさっきまでの自分の状態を。


「そう、だったんですね」


「なんや凄い事になってるみたいだけど、元には戻れんの?」


「ん~、どうやったらいいものか……」


 そんな中、周囲の装者へ一斉に通信が入った。


『こちら本部!周囲の装者に告ぐ。すぐにそのエリアから離れろ!』


 アビスの反応が無い状況で、今まで以上に緊迫した声が響く。


「一体どうしたんですか?」


『ピラーが崩壊してから、そのエリアの晶気濃度が上昇を続けている』


「それって!」


『このままでは、全員結晶化するぞ!』


 その叫びが聞こえた時だった。

 退避を始める装者たちの一角から悲鳴が上がる。

 見れば、数人の装者の四肢に結晶化の証である翡翠色の結晶が纏わりついていた。


『急げ!全滅してしまうぞ!』


 本部のそんな悲痛な叫びも虚しく、結晶化の症状は次々と広がっていく。

 それが木乃香たちに及ぶにも、そう時間は掛からなかった。


「あかん!ウチ達にも結晶化が!」


「優人は……?」


「俺は、平気みたいだ」


 自分の身体を見回しても、優人には結晶化の症状は見られなかった。

 そうしている間にも、装者たちの結晶化は進んでいく。


(クソッ!折角アビスを倒したのに、このままじゃ!一体どうしたら……)


 焦燥に逸る優人の頬を、ふわりと再び風が撫でる。


━━━━君は既に力を持っている。君はもう、壁を越えているのだから。


(ダアト?!)


 脳内にダアトの言葉が響いた。

 そう言えば、意識が朦朧としていたさっきも、同じようにダアトの声が聞こえた気がする。


「俺が持つ、力……」


 そっと呟き、目を閉じる。

 焦る心を押さえつけながら、自分の内に集中する。

 そんな優人へ答えるように、内から溢れたものが優人を導く。

 導かれるままに右手の剣を掲げると、翡翠色に眩く輝きはじめた。


「この光は……」


「隊長!結晶化が……!」


 柔らかな光が辺りを照らすと、その光に吸い寄せられるように装者たちの身体の結晶が剥がれていく。


「剥がれた結晶が、優人くんへ向かっていく……」


「待って!結晶が集まってるって、優人くんはどないなるん?」


 集まった結晶は、空気に溶けずにそのまま剣へと吸い込まれていく。

 結晶が吸収されるごとに剣の輝きは増していった。


「大丈夫だよ」


 木乃香の不安を払拭するように、優人は優しく声を掛ける。


「俺は、居なくなったりしないから」


 すでに辺りの装者たちの四肢に結晶はなく、目の前の木乃香たちにも結晶化してる部分は無くなっていた。

 結晶を集めた剣は、もはや直視するのが難しいくらいで小さな太陽の様だった。

 剣は、そのまま天使となっていた優人の身体も吸収を始めた。

 天使の身体は、結晶と同じように解けていくと剣に吸い込まれていく。

 解けた天使の内側からは、人間姿の優人が出てきていた。

 

 そして、天使の身体を吸い切った剣は一際明るく輝くと、溶けるように消えていった。

 それと同時に、意識を失った優人が落下を始める。


「優人くん!」


 それを、近くにいた木乃香が間一髪受け止めた。


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