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「何としても奴を止めろぉっ!!」
部隊長の悲鳴のような声と共に、装者たちが弾かれたように攻撃を開始する。
巨大な蛇の身体に向かって無数の翡翠の光が向かうが、蛇から放たれた紅に阻まれる。
「撃て撃て撃て!撃ち尽した者は突撃しろ!私達の町を、帰る場所を護るんだ!」
その声の横で、麻衣たちは我武者羅に攻撃を続ける。
「だめ!あいつ、硬すぎて全然削れん!」
SDAを発動し、蛇に突撃していた木乃香が戻ってくる。
その顔には、絶望の色が浮かんでいた。
装者たちの攻撃はなおも続けられているが、紅の光は膨れ上がる一方だ。
「そんな……折角ここまで来たのに……」
「こんな結末なんて……」
そしてついに、その時が来た。
大きく膨れ上がった紅が、一際明るく輝く。
アビスにそんな感情は無いとは分かっていても、蛇の瞳が勝ち誇っているように見えた。
「あぁ……そんな……私たちの、町が…………」
紅の光が一直線に空を走り、新東京市に到達しようかという時だった。
空の彼方から何かが飛んでくると、轟音を立てて地面に突き立ち紅の進みを押し留めた。
「な、なんだアレは?!一体何が起こっているんだ!」
「翡翠色の……盾?」
紅の光に対抗するように明るく翡翠色に輝いていたソレは、大きな盾の形をしていた。
「あんなもの、一体どこから?」
「見て!空から……何か、来る」
その声が聞こえたのか、光線を放ち終わった蛇が敵愾心に満ちた声を上げながら空を見る。
その視線の先では、ゆっくりと翡翠色の、巨大なナニカが降りてくるところだった。
ソレは、蛇と同じくらいに巨大な、全身を甲冑で覆った人型で、背中の翼をはためかせると、その巨体に似つかわしくない軽やかさで大地へと降り立った。
右手に巨大な剣を持ち、空いていた左手で突き立った盾を引き抜くと、その二つを構えて蛇と対峙する。
その姿は、人類を守護すると言われる天使の様だった。
「味方、なの……?」
と、蛇が大きく身体をうねらせ、天使へと突進していく。
かなりの距離が空いている筈なのに、巨大な二体にとってはあっという間の距離の様で、突っ込んできた蛇を天使はどっしりと構えた盾で受け止めていた。
「凄い……あんな巨大な物質の突進を受け止めるだなんて」
「いや、まずいぞ!あの蛇、巻き付くつもりだ!」
その言葉の通り、突進を受け止められた蛇はそのまま身体をくゆらせて、天使の身体へ巻き付きにかかる。
その巨体で締め上げられれば、如何に天使といえども苦しいはずだ。
それが分かっているのか、天使も蛇と自身の間に右手の剣を滑り込ませる。
「よし!そのまま斬ってしまえ!」
蛇の締め上げる力と、天使が剣に籠める力が拮抗する。
いつしか装者たちは手を止め、天使を応援しだしていた。
自分たちの力が及ばない存在を押し留めている天使を、例えそれが得体の知れない存在だったとしても、応援するのは当然の事だった。
蛇と天使の力比べは何時までも続くかのように思えたが、ガラスが砕けるような音が空に響き始め、それは終わりを迎えた。
「おおぉおぉおぉおおおおおおおおおおおお!!」
出現してから初めて、天使が咆哮を上げながら蛇の体躯を斬り払う。
血飛沫のように黒水晶の破片が飛び散り、蛇が苦悶の声をあげた。
無茶苦茶に暴れる蛇の身体が、天使の兜を捉える。
「あ!」
「兄さん……なの?」
弾き飛ばされた兜の下から現れたのは、ピラーの中に取り残されていた筈の優人だった。
しかし、その表情に色は無く、どこか超常的な雰囲気を醸し出していた。
「あれ、本当に優人なの?なんだか、ちょっと怖い……」
兜を飛ばされながらも、体勢を整えた天使もとい優人は、剣を振りかぶり蛇へと叩きつける。
さっきの攻防で優人が優勢になり、次々と蛇の肉体が切り刻まれていく。
そして、木乃香たちがピラーの内部で見たコアが露出すると、間髪入れずに剣が突き立てられた。
一瞬の空白、コアが砕けると蛇の全身に走っていた紅の光が消えていった。
「やった……」
「今度こそ、本当に……?」
その呟きに答えるように、蛇の全身が砕けていく。
砕けた破片が大気に溶けていく様は、始まりの夜の時と同じように幻想的な光景だった。
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