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「ふ、ふふ……真に人類の成長を、進化を阻んでいたのは僕だった、ということか……」
身体を大きく横切る傷を受け地面に横たわるダアトが、そっと独白する。
「……少なくとも、お前が人類の進化を導いてくれていたから、俺たちはここまで豊かになれた。それだけは感謝している」
「僕のやってきたことも、無駄じゃなかったわけだ……優人くん、人類がいま手にしている力は切っ掛けに過ぎない」
致命傷の影響か、身体が薄く透けてきているにも関わらず、ダアトは晴れやかな表情で言葉を紡ぐ。
それを、優人が静かに聞いていた。
「それをどう使っていくかは、君たち次第だ。どうか、更なる高みへと至れることを……」
「ああ、あとは任せろ」
その言葉に満足したかのように微笑むと、ダアトの姿は完全に霧散した。
「……終わった、の……?」
「そう、なんやないかな……」
静まり返った広間に、木乃香達の声が響く。
「それじゃあ、あとはピラーのコアを破壊すれば!」
「ピラー攻略完了、という事ですね!」
ダアトが居なくなっても、アビスが出てくる気配はない。
明るい視界で喜び合う木乃香達を見ながら、優人は笑みを浮かべる。
「いや、待てよ…………3人とも、この広場ってこんなに明るかったっけ?」
「え……あ、そう言えば」
「確かに明るなってる気ぃする」
優人の抱いた違和感が伝播する。
ふと、視線を移した麻衣の表情が凍り付いた。
「に、兄さん……コアが!」
「なに?!」
4人が気付いた事に反応するように、ズン!と重い音が響き渡り、周囲の黒水晶が鳴動し始める。
「な、何が起こってるの?!」
「ほないな事より、早うここから逃げな!下手したら、崩れるで!」
木乃香の言葉に弾かれるように、慌ててCADを操作して出口を目指し始める。
優人も3人に続いて出口を目指すが、唐突に身体が重くなる。
視界が歪みはじめ、重い身体が熱を帯び始めた。
「一体何が起こってるんや?」
遠ざかっていく広間を背にしながら、言い知れない不安が木乃香の胸をざわつかせた。
その後ろで、優人が遅れている事に気付かずに。
優人たちがダアトと戦闘を続けていた頃、ピラーの外でも激しい戦闘が続けられていた。
紅と翡翠が空に入り混じり、装者達の悲鳴と怒号が響き渡っていた。
「攻略隊はまだなのか!?そろそろ戦線が崩壊するぞ!」
「活動限界の者は下がれ!少しでも次に繋げるんだ!」
「くそ!結晶化が……」
「もう、こうなったら……」
装者達の一部が、悲壮な覚悟を決め始めた時だった。
ふと、それまで乱射されていた紅がピタリと止まる。
全てのアビスが、電源を急に抜き去られたかのようにその動きを止めていた。
「こ、れは……」
「や、やったのか……?」
恐る恐る動きを見せないアビスを突くが、なんの反応も返さない。
そんな反応は、今まで無かった事だ。
「やったんだ……攻略隊がやったんだ!」
誰からともなく叫び声が上がり、それが広がっていく。
長い戦いだった、苦しい戦いだった。
それを乗り越えたという感覚が、装者たちを無性に叫ばせた。
「戦争が終わる!もう、アビスに怯えずに済む!」
慕う上官を、入ったばかりだった後輩を、無数の戦友を見送ってきた装者たちが涙を流す。
「これで、私たちの役目も…………待て、ピラーが!」
ふと、一人の装者がピラーの変化に気付いた。
突き上げるような衝撃が伝わってきたかと思うと、空高くそびえ立っていたピラーが頂上から崩れ始めた。
「いや……崩れているんじゃない、あれは……形を変えているのか……?」
そう呟いた装者の傍に居たアビスが、突如動き出した。
「こいつ!」
咄嗟にブレードを構えたが、そんな装者には目もくれず形を変えるピラーへ一直線に向かっていく。
それは、周囲で動きを止めていたアビス全てに言えることだった。
今までであれば、装者が近くに居れば優先的に狙っていたアビスが、引き寄せられるかのようにピラーへと向かっていく。
「あ、あれは!」
形を変えるピラーに周囲が呆然とする中、飛び出した3つの光を部隊長が捉えた。
「お前たち、無事だったか!……いや、一人足りないようだが……?」
「え?!」
「うそ……兄さんがいません!」
優人がいない事に気付いた麻衣たちが困惑の声を上げる後ろで、完全に姿を変えたピラーが轟音を立てながらその姿を見せた。
「なんて……大きいの……」
絶望に染まった呟きが聞こえる。
姿を変えたピラーは、大きな、とてつもなく大きな蛇の形をとっていた。
変身が完了したことを示すように、両目に当たる部分に紅い光が宿り、身体の節々に広がっていく。
「ピラー攻略は、失敗していたのか……」
「いいえ、大元は優人が!」
「じゃあ、あれは何なんだ!」
そう言って部隊長が指差した先では、首をたわませた蛇が産声を上げるかのように咆哮を上げていた。
「あ、あんなのとどうやって戦えばいいんだ……」
要塞型がちっぽけに思える大きさは、それだけで装者たちの戦意を挫いた。
ましてや、やっと戦闘が終わったと思ったところでの出現だったせいか、その絶望感は形容し難いものだった。
「━━ォオオオオオオォォォオオォオオォォオオオオオ!!」
再び咆哮を上げた蛇は、大きく口を開くと紅い光を収束させ始める。
「まさか、この方向は!」
蛇の向く方向、その先には装者たちの帰るべき場所、新東京市があった。
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