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お待たせしました!
「これは…………傷?」
収束していたエネルギーが霧散し、戦闘音が響いていた空間が静寂に包まれた。
その中で、ダアトはゆっくりと手を頬に当てると、流れ出ていた赤い液体を不思議そうな顔をして拭った。
「僕が……血を流している?」
「見たか!これが、人の力だッ!」
優人がダアトに叫ぶが、それを無視してダアトは自分の思考に沈んでいた。
「概念であるはずの僕が傷を負う……そうか、“適応”の能力を考えれば当然の結果だったかな」
ぶつぶつと呟いていたダアトは、何かに納得したように頷くと視線を優人へ向け、拍手をし始めた。
「おめでとう、上坂優人くん。君は僕の予想以上の速度で進化を果たした」
「そんな事はどうでもいいんだ!お前がアビスを差し向けているって言うなら、早くそれをやめろ!」
「ああ……残念だけど、君の願いとは言えそれだけは出来ないよ」
そう言って拭われたダアトの頬からは、傷が消えていた。
「傷をつけられた事には驚いたけど、所詮はそれだけ。僕を消滅させたりするには程遠いし、目的を諦める原因にすらなり得ない」
「だったら、何度だって届かせてみせる!」
「君はそれでもいいのだろうけど、他はどうかな?」
ダアトの言葉に促されるままに優人が振り返ると、そこには満身創痍の木乃香たちの姿があった。
その姿に、冷水を浴びせられたかのように身体に籠っていた熱を冷ましていく。
「あっ……みんな……」
「ゆ、うとくん……ウチらのことは、気にせんで……」
「木乃香……」
疲労で重いであろう身体を、何とか起こそうとしながら木乃香が声を発する。
「優人くん……君に、彼女らを無視して戦い続けることはで……」
ダアトの言葉が不自然に途切れる。
見ると、朱夏が連結刃を振るい、ダアトの口元を斬り払ったところだった。
「酷いなぁ、人が喋っているところだったのに。まあ、君の攻撃じゃあ僕は傷つかな……」
「……黙って下さい」
今度は、麻衣の声がダアトの言葉を遮った。
「貴方の目的が何であろうと、私達の大事な場所を壊すと言うなら、私達が退く理由はありません」
「麻衣……」
麻衣の言葉に、冷めていた熱が再び灯る。
「ん~、君たちが何を言おうが勝手なんだけど、結局のところ平行線だよ?」
「ほんなん知るか!」
「やれやれ……まるで子供じゃないか」
呆れた様子で首を振るダアト。
「そこまで邪魔しようって言うなら、仕方ない。君たちを排除してからゆっくり、優人くんと話をするとしよう」
今まで攻撃の仕草を見せなかったダアトが、木乃香たちを指さす。
あまりに自然なその行動に、優人の反応が遅れる。
「じゃ、死んで」
紅い光が、一直線に木乃香たちの居た場所へ着弾する。
「みんなッ!」
着弾の衝撃で砂塵が舞い上がり視界を遮るが、その奥から翡翠色の光が漏れた。
「む、まだ防御するだけの力はあったんだね」
晴れていく砂塵の先では、朱夏と麻衣が展開したピットがダアトの放った光線を受け止めていた。
「うひゃー、結構な威力だったよ」
「それでも、私と朱夏が居れば大丈夫でしたね」
突然に命を狙われたにも関わらず明るく振る舞う朱夏と落ち着いた様子の麻衣。
そんな光景に、優人は胸を撫でおろした。
「優人くん」
身体を起こした木乃香の真っすぐな視線と声が、優人に届く。
「ウチらは大丈夫だから、思う存分やってしもて!」
震えながらも突き出された拳から飛んできたかのように、優人の中で灯っていた熱が膨れ上がる。
「分かった……すぐに倒してくるよ!」
木乃香たちに背を向け、ダアトと対峙する。
「全く……一応聞いておくけど、素直に僕の言う事を聞いてはくれないかい?」
「断る」
ダアトの言葉を、優人は一蹴する。
「まあ、そうだよね。予定外もいいとこだけど、仕方ない……手荒になるのは承知してくれよ?」
「そっちこそ、余裕ぶってられるのは今の内だぞ」
そう啖呵を切ると、優人は突撃銃を構えた。
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