-81-
夕食後、居間のリビングで優人と麻衣は並んでテレビを見ていた。
「なんだか、こうして兄さんとゆっくりするのが凄い久しぶりなように感じますね」
「確かに。ここ最近、ひっきりなしに何かしらあったからな」
学園に入学する前には当たり前だった、久しぶりの穏やかな時間を二人は過ごしていた。
「そういえば……」
「ん?どうした?」
ふと、麻衣が言葉をもらす。
「兄さんは、私達が初めてアビスと戦う事になった時の事、覚えていますか?」
「そりゃもちろん。思い返すと意外だけど、そんなに時間は経ってないからね」
「では、あの時に私が言った事も覚えていますか?」
麻衣の言葉に、あの日、屋上でぶつけられた麻衣の想いが脳裏に浮かんだ。
「もちろん。あの時はびっくりしたなぁ、麻衣があんなにハッキリと自分の考えを言う事は少なかったからな」
「それは……当たり前です。私だけ置いてきぼりは嫌でしたから」
目の前で両親を失ってからというもの、多くの人に助けられて生活をしてきたが、優人は兄であるという思いから麻衣を過保護とも言えるくらいに大事にしてきた。麻衣も、そんな優人に反発したりすることもなく過ごしてきた分、その時の衝撃は優人にとって大きなものだった。
「今じゃ、怖いものなしのスナイパーだもんな」
「…………別に、怖くない訳じゃないんです。本当だったら、とても怖いんです」
茶化すような優人の言葉に、自分の身体を抱きしめながらソッと答える麻衣。その身体は、思い起こした恐怖からか少し震えていた。
「置いていかれるのは嫌ですし、護られるだけなのも嫌です。だから私も戦いたいですし、戦ってきました」
「それだったら……」
「私が今まで戦えたのは、兄さんが前に居てくれたからです。あの時、お父さんとお母さんが私達を護って死んでしまった時から私の前に居て、私を護ってくれていた兄さんがいたから戦ってこられました」
あの時と同じように、思いのたけをぶつけてきた麻衣が、静かな笑顔を浮かべる。そこには弱々しい、護られるだけの存在ではなく、自分の恐怖を乗り越え前を向く力強い存在が居た。震えていた身体も、いつの間にか落ち着いていた。
「……そっか、そしたら見られても恥ずかしくない背中で居なくちゃな」
「ふふ。頼りにしていますよ、兄さん」
そう言って笑い合った二人は、そのまま思い出話に花を咲かせたのだった。
1週間はあっという間に過ぎ去った。職員総出で行われたCADの調整は予定通り完了し、ギリギリで出撃制限が解除された装者もいた事で、当初の予定よりも多くの戦力を確保することが出来た。
優人たちも、二三四博士から渡された第3世代型CADの慣熟訓練を博士の研究フィールドで行ったお陰で以前と変わらない、むしろ以前以上の動きが出来るようになっていた。
今、F計画に関わった全ての者が基地に集まり、目の前に立つ司令の言葉を待っていた。
「諸君、1週間という長い様で短かった期間に全力を尽くしてくれた事で、F計画は当初の予定よりも遥かに良い状態で今日という日を迎えられた」
司令の言葉に、目の周りを黒くさせ疲労が隠せない職員達が、それでも胸を張っていた。
「装者諸君は、これから未だかつてない戦いに直面するだろう。その場面に、後ろから応援する事しか出来ない自分に歯痒さを感じている。それでも!気持ちは諸君らと一緒に戦場へと向かっている。それはこの場にいる全ての者が同じ気持ちだと、私は確信している」
頷く職員の姿が、至る所で見られた。
「最後に、都市を護るべくF計画に賛同し、これから出撃する装者諸君に敬意を表する」
そこで言葉を止める司令。今までの演説で、周りの熱気は夏前なのに暑いくらいだった。
「これより、F計画は次の段階へ進む。全装者はCADを展開し、出撃せよ!」
「了解ッ!!」
綺麗に揃った装者達の声が、雲一つない青い空へ響いた。
感想、ご意見、ポイント評価頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




