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 静寂が包む道場の中で、木乃香は静かに瞑想をしていた。胸の内に浮かぶのは、白衛としての使命、F計画の主力として抜擢されたことへの喜び、そして優人に助けられたあの日のこと。集中しようとすればするほどそんな思いが消えず、木乃香の集中を掻き乱していた。


「……木乃香、集中出来ていない様だね」


「お母様……」


 スッと音もなく木乃香の前に正座したのは、木乃香の母であり、師匠でもある白衛家の現当主だ。


「話は聞いているよ。F計画……随分とまあ強気の計画を立てたものだね」


「…………」


「……木乃香、薙刀を持ってきな」


「え?」


「すぐ動く!ああ、模造の方じゃないよ、真剣(・・)の方だ」


 母に急かされるまま、道場の隅に掛けられている薙刀を二振り手に取る。模造とは違う、鋼だからこその重みがズッシリと木乃香の手に伝ってくる。


「木乃香と真剣稽古をするのは、学園に入学してから初めてだね」


「そう、やね……」


 ピタリと刃先が止まっている母と違い、木乃香の胸中を示すようにその刃先は細かく揺れていた。


「さあ、行くよ!」


「ッ!!」


 鋼同士がぶつかり合う重苦しい硬質な音と、互いの息遣いが道場内に響き渡る。


「実戦を経験して成長したかと思えば、逆に色々と抱え込んで縮こまっているね」


「え……なんで分かるん?」


 木乃香の驚きの声に、呆れたような表情を浮かべる母。


「あのね、何年貴方の母親兼師匠をやっていると思ってるのよ」


 息を整えながら向かい合う二人。


「まあ、何で悩んでいるのか想像は尽くわよ。私も通った道だからね」


 慈愛の籠った視線が、木乃香に優しく向けられる。


「お母様、も……?」


「そうよ。私だって貴女と同じくらいの時代はあったもの」


「ほら、そうやろうけど……」


 弱弱しい視線が、道場の床へと向けられた。


「悩んでいるのは、お役目の事でしょ?まあ、私の教育が悪かったのかもしれないけど、真面目に育て過ぎたわね。ちょっと話してみなさい」


「え、いや……」


「ほら、早く!」


 煮え切らない娘の姿に業を煮やした母が、強い口調で先を促す。


「……お母様の言う通り、お役目の事や。白衛は護国にその身を捧げなあかんのに、ウチは一人の人を護りたいと思うてしもている。こないな体たらくじゃあ、白衛として相応しないのやないか……」


「なんだ、そんな事か。私は、白衛のお役目を放り出したいって位言い出すかと思っていたよ。私がそうだったからね」


「…………は?」


「別に、木乃香の考えてることは可笑しくないし、当たり前のことだよ。私は白衛の当主としてお役目をしているけど、国を護る以前に貴女たち家族を護る事の方が大事なんだ」


 初めて聞いた母の想いに、木乃香は驚きで言葉を返せない。幼少の頃から、白衛家は護国の家柄であると言い聞かせられて育ってきたこともあり、てっきり母もそう考えていると思っていたからだ。それがまさか、護国よりも家族が大事だと言い出すなんて。


「そうだね……要は考え方だよ。大切な人を、居場所を護るために国を護る。別にそんな理由でもいいじゃないか」


「え、ほないな……ほんなんでええの?」


「いいのよ、そんなので」


 その言葉に、曇っていた胸中が晴れていくような感覚を木乃香は覚えた。


「そっか……ほんでもええんや……」


 再び母へ向けられた視線は、稽古を始めた時と違い、しっかりと前を見据えた力強いものとなっていた。


「うん、それでこそ我が娘だ」


 再び二人は、手にした薙刀を構える。


「お母様……いくでッ!」


 そう言って打ち付けられた鋼は、木乃香の心情を象徴するかのように、軽く澄んだ音を立てていた。


「…………ちなみに、その護りたい人って誰なの?悩みを聞いてあげたのだから、教えなさい?」


「え、いや、それとこれとは関係ないやろ?!」


「いいえ、関係あるわよ!さあ、観念なさい!」


 振り下ろされる薙刀を、自身も手に持つ薙刀で受け流す。姦しいながらも、平和な日常がそこにはあった。


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