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木乃香が目を覚ますと、そこは以前に優人が寝かされていた部屋だった。人の気配を感じて視線を移すと、木乃香が目覚めた事に気付いた優人が立ち上がるところだった。
「……この前と逆やな」
「ちょっと心配してたけど、そんな軽口が言えるなら大丈夫かな」
そう優人に答えながら、木乃香は身体を起こす。窓の外は暗く、あの戦いからそれなりに時間が経っていることが分かった。
「あ!それで、要塞型は?」
「倒したよ」
その言葉に木乃香は笑みを浮かべるが、すぐに申し訳なさそうに顔を伏せる。
「その……かんにんな、今日のこと……」
二人だけの空間に、木乃香の静かな声が聞こえてきた。
「ウチ、使命を……優人くんのいる場所を護りたかっただけなんや……」
普段の凛々しさとは違う、沈んだ暗い声。そんな声が、優人の耳にただ聞こえていた。
「通信でも言うたけど、ウチは小さい頃から白衛の者としての教育を受けてきた。国を、人を護る防人たれ、って」
「それで、天逆鉾を━━?」
木乃香の声に向かって、優人は問い掛ける。
「……うん。そうやって、勝手に天逆鉾を勝手に持ち出して、司令たちの通信も無視して━━それであの結果なんやさかい、どないしようもあらへんよなあ」
「…………」
泣いているかのようなその声に、優人は過去に木乃香と出会った時の姿を幻視した。自分の使命の向かう先が分からず、途方に暮れてブランコに座っていた幼い木乃香の姿を。
「ねえ、木乃香。あの日、初めて会った時のこと覚えてる?」
「ほら……もちろん。優人くんがカッコええって言うてくれたさかい、あの時のウチは頑張れたんやもん」
「あの時の言葉、撤回するよ」
優人の言葉に、木乃香の下がっていた視線が怒りを伴って優人に向けられる。
「それじゃあ、ウチは━━ッ!」
「待って、落ち着いて!話を最後まで聞いてよ」
「か、かんにん……」
「あの時の俺は、只々両親の見た目通りの姿しか見てなかった。人を護るカッコいいヒーロー、ってね」
落ち着きを取り戻した木乃香にしっかりと視線を合わせて、優人は穏やかな声で告げる。
「でも、10年前の関東決戦でそれは間違いだと知った。当たり前だけど装者は命が掛かってるんだって、無償の善意で人を助けるヒーローじゃなくて、護りたいものがあるから戦ってるんだと気が付かされた」
優人の声に力が籠る。
「小さいときは憧れるだけだった両親の姿だったけど、今はあの姿に並び立ちたいと思ってる。だから、今の俺にとって装者はカッコいいじゃなくて、気高いってのが合ってるかな」
木乃香は静かに、優人の語る言葉を聞いている。
「だから、木乃香の自分が護りたいものの為に全力を尽くす姿は、とても気高く感じた」
不思議と、その言葉に木乃香の視界が滲む。
「でも、それと同時にもう一つ気付いたこともあったんだ」
「……ほら?」
「装者は、絶対に居なくなっちゃいけないってこと」
あくまで穏やかに、優人は言葉を続ける。
「いくら護りたいものを護れても、自分がいなくなったんじゃ護られた方はたまったもんじゃないよ」
苦笑を交えながら言っているが、どこかその表情は寂し気だ。
「だから、俺は誰にも居なくなって欲しくないんだ。それはもちろん、木乃香の事もだよ。ずっと一緒にいてほしいと思ってる」
「ふ、ふふ……なんやそれ、プロポーズみたい」
「あ、いや!これは、言葉の綾ってやつで……」
そう言う木乃香の表情は、幾分か柔らかいものに変わっていた。それを見て、優人も笑みを浮かべる。
「木乃香……まだ、心残りはある?」
「いや……正直言えば、まだちょっと思うこともあるけど……ほんでも、命を簡単に投げ打ったりせんことは約束する」
そう言って笑う木乃香には、目覚めた時の暗さはどこにもなかった。
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