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「……は?」
真剣な表情のまま放たれた戯言に、思わず冷たい声が出た。
『いや、ふざけている訳ではなくて真剣に言っているんだ』
「……本当に?」
疑いの視線を向ける優人に焦ったのか、画面に映る朱夏のお父さんは慌てて説明を始める。
『ただ単に起爆装置が不具合を起こしているのなら、外部からその変わりになることをしてやれば爆発するはずなんだ。だから、天逆鉾の近くで爆発でも起こしてやれば……』
その説明に、改めて天逆鉾が刺さっているであろう場所を見る。その周辺には既にアビスたちが陣取っていて、意識のない木乃香を抱えたままでは突破は難しいように思われた。
「と言ってもこの距離で攻撃できる武装なんて…………あ」
自分の後ろに懸架されている物の存在を思い出す。
「これって……」
武装一覧を開くと、その中に目当ての文字を見つけた。
「あった。長距離砲撃用大型ライフル“天羽々矢”」
この状況に打ってつけの武装がそこにはあった。博士に突然託されたCADではあるが、あまりの都合の良さにこの状況を予想していたのかと疑いたくなる。
「分かりました。でも、一射したらすぐに撤退しますよ?流石に木乃香を抱えたままで戦闘は無理ですからね」
『……分かった。頼む』
『むしろ、天逆鉾が爆発した時に危ないから直ぐに避難してくれ』
優人の言葉に、頷いた司令と避難を推奨する朱夏のお父さん。そんな姿を映す通信画面を横にやり、天羽々矢を選択する。左手に木乃香を抱えているため、右側の天羽々矢だけだ。選択された天羽々矢は肩に乗せられるかと思いきや、脇の間から出てきて片手でもマウント出来るような構造になっていた。
「博士……本当に予想してたんじゃないよな?」
本気で博士が予想していたと思えてきたが、そんな思いを思考の隅に追いやる。今集中すべきは、ホログラムゴーグルに表示されたレティクルだ。
「麻衣の方が得意なんだけど……」
右手で天羽々矢を操作して照準を合わせる。その姿を確認したアビスが、優人を墜とそうと行動を開始する。それを捉えながらも、レティクルが天逆鉾を捉えるように調整を続ける。
「よーく狙って…………」
射程に入ったアビスが光線を放ってくる。防御はシールド頼みでそれらを全て無視し、全神経をレティクルの先に向ける。そして、ロックオンの表示が出た瞬間に反射的に引き金を引く。
「うおッ!」
想像以上の反動に驚くが、“大和”のシステムが狙いをブレさせないようにサポートしてくれたため狙いに狂いはない。放たれた翡翠の光は、迫りくる紅い光線を飲み込むとそのまま直進し、狙い誤らず天逆鉾━━のすぐ傍に着弾した。
「どうだ?!」
着弾した要塞型の装甲は砕かれ、覆われていたコアが露出する。それと同時に━━
『警告、前方に高エネルギー反応検知。早急な現空域からの退避を推奨』
聞きたかった言葉が聞こえた。
「成功だ!」
『急いで避難しろ!10秒もしないで爆発するぞ!』
朱夏のお父さんのその言葉に、天羽々矢をすぐさま背中に戻すと、木乃香を両手で抱えて全力で退避する。背中越しに感じる途方もないエネルギーに、冷や汗が背中を伝う。そのエネルギーを感じているのはアビスたちも同じで、恐慌状態にあるかのように要塞型の周りを飛行している。そして、その瞬間が訪れた。
キィィイイイイインという収束音が一瞬止んだかと思うと、とんでもない爆発音が後ろから聞こえてきた。一拍遅れて、爆発に伴って発生した風圧が優人を襲う。
「うおわッ」
シールド越しではあったが感じる風圧に思わず声が出る。見れば、爆心地に当たる部分では舞い上がった土埃と破壊されたアビスが晶気に還る光景が広がっていた。
「要塞型は?!」
『待ってくれ、こちらも今の爆発で観測器がやられている。しかし、アレでも効かないとなればいよいよ人類は……』
繋がったままの通信から司令の声が流れてくるが、優人の視線は爆心地に向けられたままだ。周囲に風が吹き、舞い上がっていた土埃が吹き飛ばされていく。その中から現れたのは━━━━しっかりと形を保った要塞型の姿だった。
『なん……て、ことだ…………天逆鉾を以てしても無理だというのか』
絶望に染まった司令の声が聞こえてくる。優人の目にもその姿は見えていたが、違和感を覚える。その正体には、すぐに気づくことが出来た。
「コアが……光ってない?」
『……なにッ?!本当か!?』
優人の呟きに、司令の声に力が戻る。CADのズーム機能を使ってよく見てみても、確かにコアにあるはずの紅い輝きは無く、黒く冷え切っている。と、ガラスが軋むような音が辺りに響き始めた。
『これは……まさかッ!』
軋む音は段々と大きくなっていき、今度は要塞型の装甲に目に見えて罅が入っていった。そして、それが全体に広がっていった時に、轟音をあげながら要塞型は砕け散った。基本型のアビスとは比べ物にならないほどの装甲が晶気へと還っていく。夕日に反射してキラキラと輝くそれは、人類を脅かす敵が元となっているものの、とても幻想的な光景であった。
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