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空中を一人飛ぶ木乃香の下に、何度目かになる通信が入る。今までの通信と同じように無視しようとしたが、表示された通信相手にそれを思い直す。
「……司令からの差し金かいな?」
『まあ、そんなとこ』
軽い口調の木乃香に、同じく軽く帰したのは優人だった。
「優人くんに話がいくのは、ちょっと意外やったかな」
『そうか?俺はむしろ納得したよ。俺と木乃香はバディだからな』
「……そうやな」
司令から事の顛末を聞いているだろうに、責めるような態度を見せない優人に、木乃香の口元が緩む。
「それで、あほなことしてへんで戻ってこいって?」
『司令はそんな感じだったね』
「それやったら、悪いけど……」
『話くらいは聞いてくれよ』
木乃香を遮るように、優人が言葉を発する。その声は、幼い頃の思い出を思い起こさせるような優しく、落ち着いたものだった。
『なあ……木乃香はこのまま特攻して死ぬこと、何も思わないのか?』
「……それが、白衛の使命やさかいね。思うてへんで」
少しだけ間があったが、それでもしっかりとした声で木乃香は返す。サウンドオンリー状態のため優人には気づかれなかったが、その表情は使命感に満ちたものではなく、恐怖に耐えるようなものだった。
『そっかぁ…………俺は寂しいけどな』
「…………」
『学園に入って……まあ、小さい頃にも会ってたけどさ、それでも木乃香が居なくなるのは、寂しい』
顔を見るまでもなく、声だけで優人が悲しそうな表情をしているのが木乃香にも分かった。同時に、それだけ思われていた事に場違いながらも嬉しさを感じていた。
それでも、そんな風に自分を思ってくれている人を護るためにも、止まるわけにはいかないと木乃香は決意を新たにする。
「優人くんがそこまで思うてくれてるのは、えらい嬉しい。そやさかいこそ━━」
木乃香の顔から、恐怖が消えていた。残ったのは、護るべき存在を守り抜くために決意した防人だけだった。
「━━ウチは、ここで引き返すわけにはいかん。止まるわけにはいかん。あの日、優人くんが憧れた装者の姿に恥じんように、ウチは行くで」
『……どうしても?』
「どないしても、や」
力強い声に、優人も木乃香の決意が覆しようのない程固まってしまったことを感じていた。
『木乃香がそう言うなら、俺も自分の我を通すよ』
「え?」
『俺はね━━━━もう、誰も失いたくないんだ』
その言葉を最後に、通信が切られる。発せられた言葉は、今までのどんな優人の言葉よりも決意に溢れ、強い思いが籠った物だった。
「ほんでも……もう引き返せんねん」
耳に残る優人の言葉を振り払うように、木乃香は今一度右手の天逆鉾を抱え直すと、要塞型に向かって飛んで行った。
「兄さん、あんな大見え切りましたけどCADはどうするんですか?」
優人が木乃香との通信を終えると、後ろで控えていた麻衣が声を掛けてくる。疑問を投げかけてはいるが、その表情は明るかった。
「まあ、展開出来ない訳じゃないけど、戦闘機動は無理だろうな。でも、木乃香を連れ帰るのをあきらめるつもりはないよ。1機くらいは空いてるCADもあるだろうし」
左手に着けている罅の入ったCADを見ながら、優人が答える。その声に、迷いは無かった。ただ、自分が決めた事を必ず成し遂げるという決意があった。
「あの司令が許可するかな?」
「そしたら司令には悪いけど、木乃香の二の舞になるしかないね」
朱夏の疑問に、麻衣と笑い合いながら答える。そんな時だった、優人たちの居る部屋のドアが開かれ、一人の女性が入ってきた。
「その悪巧み、私も混ぜてもらおうか」
そう言いながら入ってきたのは、白衣に身を包んだ君島二三四博士だった。
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