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「木乃香、遅いね?」
割り当てられた待機室にいると、帰りが遅い木乃香を疑問に思った朱夏が口にする。確かに、トイレに行ってから10分以上も経っているのに戻ってくる気配がない。
「どこかに寄っているのでしょうか?」
「ん~、木乃香だったら連絡の一つでもくれそうだけどな」
「そうですよね」
そんな風に朱夏たちと話していた優人の端末が、唐突に着信を告げる。
「お、噂をすれば…………あれ?」
「どうしたの?」
「いや、木乃香からだと思ったら、司令からの通信だった」
「え?早く出なきゃじゃん」
促されるまま端末を耳に当てると、飛び込んできたのは焦った様子を隠そうともしない司令の声だった。
『上坂くん、突然の連絡ですまない。至急確認したい事があって連絡させてもらった。そこに、白衛木乃香はいるか?』
「え……いいえ、いませんけど……木乃香が何かあったんですか?」
『……そうか、間違いではなかったのか』
不穏な物言いに、何か良くないことが起こっている事を察する。優人の顔色が変わったことに、朱夏も麻衣も司令からの通信が良い内容でないことに気付いた。
『白衛はどれくらい前から居なくなっていた?』
「大体、10分くらいだと思いますけど……何があったんですか?」
『…………そうだな、君たちには知っておいてもらった方がいいか』
優人の問いに、答えようか悩むように言葉を濁した司令だったがそれも束の間、言葉を続ける。
『つい先ほど、天逆鉾を管理していた隊員から報告があった。何者かによって天逆鉾が持ち出された』
告げられた司令の言葉に、優人はそれがとんでもない事だとすぐに認識出来た。要塞型アビスを討滅するための切り札と言える兵器が持ち出されたのだ、司令の声に隠せない焦りが混じるのも頷ける。
「大変じゃないですか!でも、どうして木乃香のことを……まさか」
『君が察した通りだ。つい先ほど、基地のレーダーが一機のCADが飛び立つのを確認している。正規装者に適合する反応はなく、白衛木乃香の使用機であるとの結果が出た』
司令の言葉に絶句する優人。護国という行為に対して、並々ならぬ感情を持っていたのは察していたが、無断で天逆鉾を持ち出して出撃するほどとは思ってもいなかった。
『私の見通しが甘かった。厳重に管理させていた天逆鉾をどうやって持ち出したのかは分からないが、護国御三家に連なる彼らの覚悟を甘く見ていたよ』
「通信は、木乃香は通信に応じないんですか?」
『君がそれを言うか?無断で出撃しているのだから、こちらの通信は全て無視されているよ』
前科がある優人としては、司令の言葉が耳に痛い。
『……いや、済まない。終わったことを責めるのは違うな。私もどうやら相当焦っているらしい、柄にもなく八つ当たりをしてしまった』
「いえ、事実なので……大丈夫です。それはそうと、そんな大事なことをどうして俺に?」
一つ、疑問に思った事を優人はぶつける。対要塞型の切り札と言える天逆鉾が持ち出されたなど、重大な機密事項ともいえる事だろう。それを正規装者どころか、対アビス防衛部隊の正規隊員ですらない優人たちに伝えた理由が分からなかった。
『君たちが出撃した時とは状況が違うからだ。聞けば、君と白衛はバディを組んでいると聞いている。君からの通信ならば、白衛も答えるのではないかと思ったのだ。白衛に、戻ってくるよう伝えてくれないか?』
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