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「……はい。ウチ、立候補する」
「木乃香?!」
司令の言葉に真っ先に反応したのは、木乃香だった。優人の横の座席から立ち上がり、入学式で見せた凛々しい表情でスッと手を挙げている。
「君は……白衛家の娘さんだったね。自分の言っている意味を理解しているのか?」
「もちろんです……そのための、護国御三家ですから」
木乃香が、今まで見た事ないような厳しい表情で司令に答える。護国御三家、その名の通り国を守る為にその全てを捧げている三家だ。国を護るためには、その身を投げ出すのも厭わないとも噂されていたが、木乃香の言葉と表情を見るにそれは真実だったようだ。
「待ってくれ!」
そんな木乃香の言葉に待ったを掛けたのは、同じ御三家の一員である鎬飛鳥だった。前に座っていた鎬は、立ち上がりながら振り返ると木乃香へ視線を向ける。
「鎬さん……まさか、反対するんですか?」
「いいや、白衛の言う事に否を唱えるつもりはない。むしろ、それでこそ御三家に連なる者、と称賛したいぐらいだ」
木乃香と鎬の会話に、室内の装者達が圧倒される。装者として、アビスと戦う覚悟はしていたが、戦って死ぬ覚悟までしていたのは、この場には鎬と木乃香の二人だけだった。
「それでは、どうしたというのですか?」
「白衛の実力にケチをつけるつもりはないが、CADの扱いは3年である私の方が経験豊富だ」
「鎬さんの方が適任だと?」
「そうだ」
「それなら猶更、鎬さんは護国の為に生き残ってもらった方が良いかと思いますが」
「そもそも、絶対に死ぬと決まっている訳ではないだろう?」
向かい合う二人の強い視線が交錯する。どちらも国を護る事を第一として教育されてきた身だ。こうなることは必然だった。
「二人とも、落ち着いてくれ」
どちらも譲らない二人の間に入ったのは、壇上にいた司令だった。2人の視線を遮るように、左手が広げられている。
「こんな状況で戦意を失わない二人の存在は有難いが、少々熱くなり過ぎだ」
「……すみません」
「申し訳ありません……」
人を統率する者特有の言葉の重さに、二人も冷静さを取り戻す。
「まず、厳しい役に立候補してくれたことに感謝する。だが、鎬のCADは辛うじて飛べる程度だと聞いている」
「そ、それは……」
「もちろん、先の出撃で奮闘してくれたからこそだという事は理解している」
「はい……」
司令の指摘に、鎬は素直に頷く。
「でしたら!私のCADはまだ動けます」
「白衛……君の立候補を有難く思うが、自分の立場を考えてみて欲しい」
「立場、ですか?」
勢いづいた木乃香が、司令の言葉に首を傾げる。
「そうだ。鎬にも言えることだが、君は御三家の一員であると同時に学生であるのだ。つまり、正規の装者で未だないということだ」
「……それは、つまり」
「君たちの今の状況はとても特殊であり、共に戦う戦友であると共に、本来は守るべき存在でもあるということだ。だから、君たちを選出することは認められない」
「ッ!だったら!なぜ私達にも天逆鉾について知らせたのですか?!」
木乃香の言葉に、鎬も頷く。確かに、特攻役を選出しないのであれば、学生部隊をこの場に呼ぶ必要は無かったはずだ。そんな思いは他の学生もあるのか、頷く姿が多くみられる。
「……そうだな。確かに白衛の言う事は最もだ……だが、全てを説明しなかった場合、使命感に駆られた一部が暴走しない保証は?情報が与えられないことによる不信感は出ないか?こんな状況だ、情報は漏れ聞こえるものだ。正しい情報を伝えなければ、正しい行動も作戦も立てられない。そんな考えがあったから、学生諸君もこの場に集めさせてもらった」
厳しい表情ではあるが、諭すような口調に学生達は納得の色を見せていく。司令の言うことに、思い当たることがある学生が多かったからだ。
「納得してくれたようで良かった。情報共有は以上だ。正規装者からの立候補を待っているが、あまり時間は無い。30分しても立候補がない場合は、私が指名させてもらう」
そう言って、司令は部屋を後にした。それに続くように正規装者や学生達も部屋を出ていく。そんな中で、瞳の中の決意を変えていない人物に気付く者はいなかった。
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