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上坂優人は、夕焼けの茜色の中で目を覚ました。人が行き交う音が微かに聞こえ、見覚えのない天井だが、どこかの部屋にいるらしかった。ベッドに寝かされているせいか、心地よい暖かさと感触に覚醒してきた意識が眠りに向かおうとしている。
「優人くん、目ぇ覚めたの!」
不意に、優人の横から声がした。涙混じりの木乃香の声だ。
「木乃香……あれ!ここは……俺は、確か」
そこまで口にした時、今までの事が脳裏にフラッシュバックしてきた。大型アビスの侵攻、学生部隊としての出撃、そして……紅嶺崎の死。
「ッ!アビスは?!」
「優人くんが墜とされたあと、急に撤退していって……みんなも限界が近かったさかい一旦戻ってきてん」
「なるほど、それで俺はここに寝かされていたのか……どれくらい寝てた?」
痛む身体を起き上がらせながら優人は言う。改めて自身の身体を見ると、至る所に処置をされた跡があり、傷だらけであったことが分かった。
「基地に戻って1時間くらいかな」
「それで、紅嶺崎さんは……」
「それは…………」
自身の状況が分かったところで、一番確認したかった事を聞く。その質問に、答えづらそうに言葉を濁しながら目を背ける木乃香。その態度から、聞くまでもなく紅嶺崎の死が事実であったことを察した。
「そっか……紅嶺崎さん、本当に……」
改めて突き付けられた事実に気持ちが落ちかけるが、木乃香以外に人がいない事に気付いた。
「麻衣と朱夏は?」
「安心して、別の部屋でまとめて治療を受けてるさかい。優人くんが一番重症やったんやで?」
みんなが無事と聞いて、ホッと一安心する。それでも、アビスは殲滅されたわけではなく、ドアの外から聞こえる慌ただしい足音が、未だに大型アビスへの対応に追われていることが分かった。そんな中、木乃香と優人の端末が基地司令の招集命令を通知した。そこには、大型アビスへの対応会議と記されていた。
「装者諸君、学生部隊諸君、帰還から間もない中で集まってくれたことに感謝する」
そう言って司令は頭を下げる。部屋に集まっているのは、比較的軽傷であったり出撃制限になっていなかったりしている装者たちだった。作戦会議室と銘打たれているそこは、扇形に部屋が広がり扇の起点に当たる部分に司令は立っていた。
「ここでは、現在活動を停止している大型アビス、“要塞型”への対応に関して進展があったため、諸君らの意見を聞きたく集めさせてもらった」
そう言って司令が端末に表示したのは、見覚えのない武装だった。
「これは対アビス晶気収束砲“タケミカヅチ”の技術を応用して作られた武装……晶気収束爆弾天逆鉾だ」
絶望的な状況と思われた中での発表に、室内が騒がしくなる。
「ただ!」
それを司令の大きな声が静めた。希望を持ち始めた装者たちが、司令へと意識を向ける。
「この天逆鉾は、威力に関しては“タケミカヅチ”と同等以上が期待できるが、一つの欠点がある。それは、要塞型に直接取り付けなければならないということだ」
司令の言葉に、装者達の明るくなっていた表情が曇る。要塞型は単独で侵攻してきている訳ではない。数多くの様々な種類のアビスと共に侵攻をしてきているため、それらを排除しなければ取り付くことが出来ない。今までは辛うじて装者が居たため、取り付くことは比較的容易だったかもしれないが、今では出撃可能な装者の数もかなり少なくなっている。つまり、要塞型に取りつくこと自体が難しい状況にあるのだ。
「本来であれば、出撃可能な装者の数が揃うのを待ってから反抗作戦を開始すべきなのだが……これを見てくれ」
そう言って端末に映し出されたのは、先ほどの戦いで削られていた装甲が徐々に修復されていっている要塞型の姿だった。
「これは10分前に撮影されたものだが、既にコアを覆う装甲が修復されつつある。時間を開ければ完全に装甲を回復させてしまい、天逆鉾の破壊力であっても撃破不可能となってしまうことが予想される」
厳しい状況が、装者達に突き付けられる。
「……そこで、装者諸君には一つ選んで貰わなければならない」
そこで一度、言葉を止めると懺悔するかのような表情で口を開いた。
「誰が要塞型に特攻するのかを」
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