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「優人くん、どないしたん?!」
優人の尋常でない叫び声を聞きつけた木乃香が、周囲のアビスを薙ぎ払いながら近寄ってくる。それでも、優人は木乃香に答えず、司令へと言葉を続けていた。戦場で無防備な姿を見せた優人にアビスが寄ってくるが、それを木乃香が必死に防ぐ。
「司令、嘘だろ?紅嶺崎さんが……」
『君は……彼女が保護者となっていた学生か。……残念だが、本当の事だ。君も見ただろう、爆発する翡翠の光を』
その言葉に、優人は戦場へ向かう際に見た光景を思い出した。
「あの光が……紅嶺崎さんの……」
「優人!」
「ッ!木乃香?」
放心していた優人が、木乃香の鋭い呼び声に気を確かにする。
「何があったか知らんけど、しっかりして!ウチ達、戦場におるんやで?!」
優人に迫っていたアビスを両断した木乃香が、振り返りながら叫ぶ。その声でようやく、優人は自分が周囲をアビスに包囲されていたことに気付いた。
「ッ……テエェッ!」
周囲は無数の晶気の輝きで満ちていて、何体ものアビスが此処で殲滅されたことを表していた。
「これは……木乃香が?」
「ほうや!いきなり呆けて……何があったのか気になるけど、今はこの状況をどないかせなやな」
優人たちの隙を伺うように周囲を取り巻くアビスを油断なく見据えながら、木乃香が言う。
「あ、ああ」
そう言って両手の突撃銃を構えるが、どこか動きが鈍い。
「こいつらが……紅嶺崎さんを…………ない」
「優人くん?」
俯き、何事かを呟く優人に怪訝そうな声を上げる木乃香。その次の瞬間だった。
「許さないッ!!」
顔を上げ大きく叫ぶと、ブーストを吹かせて大型アビスへ吶喊する優人。
「ちょっと?!」
突然の無謀な行動に木乃香は慌てて追いすがろうとするが、それを阻むようにアビスが殺到する。
「優人くん!無茶せんで!」
そんな木乃香の叫びが追い付かない勢いで飛び出した優人は、無茶苦茶に両手の銃を乱射し、攻撃してくるアビスへ反撃しながら一直線に大型アビスへ向かう。
「よくも紅嶺崎さんを……許さないぞ、アビスぅ!」
優人が見据えるのは、大型アビスただ一つ。爆発した感情に呼応するかのように、翡翠の光が優人に集う。そんな中で、優人の脳裏に突然一つの言葉が浮かび上がり、沸き上がる衝動のままに叫ぶ。
「SDA:適応ッ!!」
瞬間、優人の身体に翡翠の光が凝縮された。それと同時に、不思議な感覚を優人は味わっていた。翡翠の光が身体に入る毎に、自分の中の晶力が増大していくのが分かった。それはとても心地良い感覚で、ともすれば沸き上がる怒りを忘れて酔ってしまいそうなほどだった。そんな状態の優人を危険に感じたのか、大型アビスが動きを見せる。無数の砲身から紅い光が放射状に放たれ、急激に曲がったかと思うと優人へと集中していった。
突然の感覚に戸惑っていた優人は、回避することも叶わず、CADの晶力シールドを貫通したソレに撃ち抜かれた。
墜ちていく優人の姿に慌てたのは、周囲にいた木乃香たちだけではなかった。映し出された光景から、慌てて大型アビスを下げたのはダアトだった。
「危ない危ない、折角ティファレントとして覚醒したところだったのに、10年前と同じ轍を踏むところだった……まだ生きているよね?」
映し出される光景を切り替えると、なんとか追いついた木乃香に抱き留められている優人の姿が見えた。
「ふぅ……良かった。しかし、難しいものだな。あのティファレントが居なくなったことで覚醒出来たのは行幸だったけど、まさか墜とされるとはね。まあ、まだ生きているし少し間を開けてからまた負荷をかけていけばいいか」
そう呟いたダアトは、もう一当てして装者たちを撤退に追い込むと、侵攻していたアビスを停止させるのだった。
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