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 空を埋め尽くすような数のアビスの中で、何人もの装者が刀を振るい銃弾を撒き散らしている。


『警告、全力戦闘可能時間残り3分』


 システムの無機質な音声が、重装甲型のアビスを斬り捨てた紅嶺崎の耳に届く。紅嶺崎が通った場所のアビスは全て倒され、局地的に人類側に有利な状況となっている。しかし、それもあと僅かな時間の話だ。多くの装者が結晶化ギリギリの状態で戦っている現状、紅嶺崎が戦闘不能になってしまえば一気に戦況は変わってしまうだろう。


「もっと……もっと速く!」


 焦りを感じさせる叫びと共に、紅嶺崎を翡翠の光が包み更に加速していくが、その四肢には薄っすらとだが結晶が纏わりついていた。


「雑魚を相手にしていても埒が明かないか……かくなる上はッ!」


 はるか視線の先には、装甲が剥がれて内部が丸見えになっている大型アビスの姿。内包していたアビスは既に居らず、巨大なコアがその紅い光を覗かせていた。


「本丸を狙う!あと少し耐えてくれ!」


 紅嶺崎の叫びに呼応して、周囲の装者が大型アビスの間に立ちはだかるアビスへ攻撃を集中させる。そのお陰で、紅嶺崎から大型アビスまで一直線に道が出来た。


「おおおおおおッ━━!!」


 残された時間と力を込めて、数多の装者達が決死で作り出した道を紅嶺崎進む。打ち漏らされたアビスが攻撃してくるが、鎧袖一触とばかりに通り過ぎた瞬間には粉々に砕かれている。その代償として、全身の結晶化が進んでいく。


「グッ……まだ……まだぁッ!」


 急激に進む結晶化により、右足が砕ける。それでも、速度は落ちることなく更に上がっていく。大型アビスはもはや目前だ。紅嶺崎を脅威に感じたアビス達が、それ以外の装者を無視して結集していく。


「邪魔、だぁあああぁああァッッ!!」


 翡翠の彗星となった紅嶺崎の姿へ、装者達が戦いながらも望みの籠った視線を向ける。逆境をいつも覆してきた英雄が、今回もまた勝利をつかみ取ってくれると。


『全力戦闘可能時間、残り1分』


 紅嶺崎の視界には、もはや大型アビスの姿しかない。駆け抜けていく紅い光線は、紅嶺崎から溢れ出す翡翠の光に弾かれて届かない。それでも、辛うじて残っていた左足が砕けた。


「あと少しだけ……あと、一振りッ!!」


 大量のアビスの囲いを抜け出す。目の前には、大型アビスしかいない。


 捉えた。


「くたばれ、アビス!」


 大上段に構えた“草薙ノ太刀”を、勢いそのままに振り下ろす。引き寄せられるようにコアへ向かう太刀がその距離をゼロにする瞬間、硬い感触と共にその刃が黒い輝きに阻まれた。


「な、にッ……!」


 それは、急激に再生されたアビスの装甲だった。それも、重装甲型よりも更に固く作られた城壁とも言うべきものだ。呆然とする紅嶺崎を嘲笑うように、最後の力を振り絞った両手が砕け散り、滑り落ちた“草薙ノ太刀”がその姿を晶気へと還していく。


『全力戦闘可能時間、残り……』


「……、ぁあ」


 CADの音声が遠くに聞こえる。後ろを見れば、文字通り手も足も出なくなった紅嶺崎に止めを刺そうと、無数のアビスが殺到してくる姿が見えた。


「……ここまでか」


 呟き、しかしその瞳から強い光は失われない。


「二三四、すまない。結局こうなってしまった」


 アビス達から目を離さず独白する。四肢を食らった結晶は、まだ食い足りないのか遂には身体の殆どを侵食していた。


「優人、麻衣……二人の成長をこれ以上見守る事が出来なくて、本当に残念だ」


 射程に入ったアビス達から紅い輝きが漏れだす。その光景を、紅嶺崎は妙に遅くなった視界で眺めていた。


「私はここで死ぬが、ただで死んでやるつもりはない」


『“カグツチ”発動申請を確認しました。発動しますか?』


 脳裏に、優人たちの姿が浮かぶ。


「私の大事な物、貴様らに奪わせはしない……“カグツチ”発動!」


 瞬間、戦場から音が消えた。眩いばかりの翡翠色が戦場を覆い、次いで、とてつもない規模の爆発がアビス達を襲った。


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