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 時は遡り、学生部隊に待機命令が出された頃。学園は昼食の時間であったが、部隊員の端末には緊急の呼び出しがされていた。


「兄さん、これは……」


「部隊の緊急招集……って何かあったのか?」


「緊急招集って……それじゃあ、早う集合場所に行かな!」


「そうだね」


 食堂で昼食を摂っていた優人たちは、急いで残っていた食事をかき込むと、集合場所として指定されていた多目的室へ向かった。






 多目的室には、すでに殆どの隊員が集合していた。部屋には先輩達だけでなく、須藤の姿もあり、端末でどこかと連絡を取っていた。


「あ、優人くんたちも来たね」


「逢坂先輩!」


 人でごった返す室内で声を掛けられた方を見ると、逢坂と伊波が立っていた。


「緊急招集って、何があったんですか?」


「分からない。まだ情報が公開されてなくて、部隊員が揃うまで待っているみたい」


 そう言って先輩が部屋の扉に目を向けると、まだ何人かの先輩達が部屋に入ってきているところだった。


「それと、須藤先生がどうしてここに……」


「揃って様だな。総員傾注!」


 逢坂に優人が疑問を投げかけようとしたとき、須藤から声がかかる。今までの訓練で条件づけられた優人たちは、無駄話をやめてすぐさま気を付けの姿勢になる。それを見た須藤は、何時ものように表情を和らげることは無く、厳しい顔つきのまま話始めた。


「先ごろ、アビスの侵攻が確認された」


 その言葉に、口を開く者はいないものの動揺が広がっていくのを優人たちは感じた。そんな学生たちの姿を見ながら、須藤はホログラムモニターを立ち上げ、戦況を映し出す。


「現状、進行中のアビスは1体のみであるが、今まで観測されたことのない大きさであり、新型だと考えられている」


 二度目の衝撃が室内に広がる。前の侵攻時に妨害型という新型が観測され、今また別の新型が観測されたということは、アビスの勢力が増大してきている事に他ならないからだ。


「スクランブル隊や正規装者が既に出撃・迎撃に当たっているが、万が一の事態に備えて学生部隊にも待機命令が下った。それに伴い、学生部隊の指揮を私、須藤が執る事となった」


 そんな須藤の話がされた時だった。眩いばかりの翡翠色の光が、室内を染め上げた。


「な、なに?」


「眩しいッ」


 突然の光に、学生の悲鳴が上がる。光は、数秒続いたかと思うと、徐々に弱くなり完全に消えた。それでも、室内の騒めきは落ち着きを見せない。


「諸君、静粛に」


 低く、落ち着いた須藤の声に、少しずつ落ち着きを取り戻していく学生たち。


「今のは、対アビス晶気収束砲“カグツチ”の射撃光だ。以前の侵攻でも使用されているため、見た事がある者もいるだろう」


 その説明に、優人と麻衣は研究基地の屋上でみた翡翠色の光を思い出した。学生たちも思い当たる事があったのか、完全に落ち着きを取り戻していた。そんな折、須藤の端末が鳴る。


「須藤です……はい…………はい、了解しました」


 言葉少なげに端末を切ると、改めて学生に向き合った須藤だったが、その表情は先ほどよりも険しいものになっていた。そのことから、学生たちも今の通信が良いものではなかったと察した。


「諸君、状況に変化があった。まず、“カグツチ”の射撃は命中。進行中のアビスの装甲を削ることに成功したが、撃破には至らなかった。また、侵攻速度を落とすことなく進んでいるそうだ。そして……」


 言い辛い内容なのか、今まで淀みなく話していた須藤の言葉が途切れる。それもつかの間、すぐさま口を開いた須藤が話した内容は、室内に三度目の衝撃を与えた。


「進行中のアビス内部で無数のアビスが観測された。その数は少なくとも100以上、今なお反応は増大中とのことだ。それに伴い、学生部隊にも出撃命令が下る可能性が高くなった。各自、心の準備を済ませておけ」


 動揺が収まらない室内へそれだけを言うと、時間を与えるためか須藤は部屋を出た。須藤の姿が見えなくなった瞬間、一気に騒がしくなる室内。その中には、悲観的な言葉がチラホラ聞こえた。そんな中、一部の学生は普段と表情を変えず佇んでいた。優人たちの横に立つ木乃香も、その一人だった。


「木乃香……木乃香は怖くないの?」


「ん?まあ、一回実戦してるし……それ言うたら、朱夏は怖いの?」


 不思議そうに聞く木乃香に、朱夏は少し声を大きくして返す。


「怖いよ!そりゃあ、前はなんだか盛り上がっちゃって普通に戦えたけど、家に帰ったら時間差で腰抜かしちゃったんだからね?!」


「ははは、ほらちょっと見て見たかったな」


「もう!笑いごとじゃないよ……」


「かんにんかんにん……ほやけどなぁ、みんなも知ってると思うけど、ウチの家は護国御三家って言われてるくらいだし、小さい頃から人類を護ること使命や言われてきたさかいなぁ。とうとうその時が来たって思いの方が強いかいな」


 なんでもない事のようにそう言う木乃香の姿に、優人たちは木乃香がどこか自分たちと違う場所を見ているような感覚を覚えた。


「じゃあ、優人くんも麻衣ちゃんも怖い?」


「全く怖くないかと言われると、そうではないですけど……」


「まあ、三回目になるからな。ちょっと慣れてきたかな」


「ええ~、怖がってるの私だけ……」


 代わりにと木乃香から聞かれた優人と麻衣は、正直な考えを伝えた。その言葉に、朱夏が落胆の声を上げる。


「大丈夫かて!ウチが絶対にみんなを護るさかい」


 そう自信満々で言う木乃香に、4人の空気は前向きなものになっていた。


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