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「あ、アビスの反応、急激に増大!100を越えて以前増加しています!」


 オモイカネの警告音が鳴り響き、悲鳴のようなオペレーターの声が司令の耳に入る。モニターの中で、解き放たれたアビス達が装者達に襲いかかる。ほとんどが基本型だが、中には特殊型の姿も見える。


「司令!救援要請が多数届いています」


「やむを得ないか……紅嶺崎に出撃命令!“タケミカヅチ”第二射用意!」


「了解!」


 以前の侵攻以上に危機的な状況に、もはや最大戦力を遊ばせておく余裕はなく投入を決意する。しかし、それでも戦力比は互角になれば御の字といった状況だ。アビスの発生要因は解明されておらず、無限に増殖できる可能性がある。一方で、装者は戦闘をすればするほど結晶化のリスクが上昇し、無理に運用すれば最終的に自分たちの首を絞める事になる。一番いいのは、交替で出撃し戦闘を行う事だが、短い期間に大きな戦闘があったことでそのローテーションが崩れてしまっている。


『紅嶺崎より指令所。“タケミカヅチ”第二射まであとどれくらいかかる?!』


「あと20分は掛かります!」


『そうか……了解した!』


 紅嶺崎からの通信に、指令所の雰囲気が少し持ち直す。10年前も、つい最近の侵攻も、紅嶺崎が出撃することで勝利を勝ち取ることが出来ていた。その意識があるからか、紅嶺崎の姿を見ると心に余裕が生まれるのだろう。しかし、それは紅嶺崎の状況を知らない者から見たら、だ。事情を知る司令を含めた一部の者たちの心中は、絶望が色濃くなっていた。紅嶺崎の全力戦闘可能時間は10分の制限を掛けられている。今回の出撃でアビスを倒しきれなかった場合、人類側は戦力の殆どを失った状態で決戦に挑まなければならない事になる。


「紅嶺崎……頼むぞ」


 司令の小さく発せられたその呟きは、誰にも聞かれることなく消えていった。






 戦闘空域近く。出撃命令を受けた紅嶺崎は、すぐさま基地を飛び立つと戦場に向かっていた。その最中、二三四からの通信が入る。


「どうした?出撃中なんだが?」


『そんなことは知っているよ。それよりもだ……分かっているのか(・・・・・・・・)?』


 通信画面に真剣な表情の二三四が映る。その視線は、誤魔化しを許さないといった強い気持ちが伝わってきた。


「……分かっているよ」


『だったら!』


「それでも、私は装者だ。人類の防人であり、最後の砦でもある。私達が怖気づいたら、誰があの都市を護るんだ?」


『それは、そうだが……』


 紅嶺崎の言葉に、二三四の反論の声が弱まる。危機的な状況において、紅嶺崎が装者達の戦力的だけでなく、精神的な支柱にもなり得る事を知っていたからだ。その一方で、友人として、研究者として紅嶺崎の身体の現状を知っている身としては、これ以上の出撃に賛同出来ないという思いもあった。


「二三四の懸念は分かっている。私だって無理をするつもりはないさ。あいつ等に託された優人と麻衣の晴れ姿も見たいしな」


『……刀子の意思が変わらないことは分かった、君の言葉を信じるよ。私も自分の出来る事、すべきことをしよう。しかし、改めて言わせてくれ。全力戦闘可能時間は10分とされているが、それは本当にギリギリのラインだ。その時間が過ぎれば、一切の戦闘は出来なくなると考えてくれ』


「分かっている」


『そうか……ならば、私から言う事はもはやない。武運を祈る』


 そう言うと、通信画面が閉じられる。画面が途切れる瞬間に見えた透明な輝きに、紅嶺崎は自分の本当の考え(・・・・・)がバレていた事に気付いた。


「全く、こういうところは本当に敵わないな。すまない二三四…………後を頼む」


 呟き、前を向く。既に戦場が目の前に近づいていた。紅嶺崎の脳裏に優人たちの姿が過る。


「化け物ども……私達の大事なものは、たとえこの身朽ち果てても、護らせてもらうぞッ!」


 右手に大太刀“草薙ノ太刀”を展開し、担ぐように構える。


「SDA:加速(アクセラレート)……紅嶺崎刀子、推して参るッ!」


 裂帛の気合を上げながら、紅嶺崎はアビスの群れへと斬りかかった。


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