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それは、昼を過ぎた頃にやってきた。オモイカネが、それまで聞いたことのない警告音を鳴らし、アビスの襲来を伝えた。
「オモイカネに反応あり!数は……え?!い、一体です!侵攻中のアビスは一体のみです!」
オペレーターの叫び声が指令所に響き渡る。
「なんだと?確かか?!」
「はい!しかし、大きさが今まで観測したことのない巨大さです!メインモニター、最大望遠で出ます!」
そう言ってモニターに映し出されたのは、遠目から映し出されたのにも関わらず、山と見間違うようにそびえ立つアビスの姿だった。
「なん、だ……あれは…………あれも、アビスだって言うのか」
「巨大アビス、真っすぐ新東京市に向かってきます!到達まで、およそ30分!」
「スクランブル!修復の完了した天岩戸を起動しろ!迎撃システムも“タケミカヅチ”も、全部だ!」
矢継ぎ早に司令が指示を出し、指令所が慌ただしくなる。すぐさまスクランブル部隊が出撃していき、都市の周囲に晶力フィールドが展開されていく。同時に、天岩戸周囲に配置されたミサイル群が目標を探るように動くと、巨大アビスの方向にピタリと砲先を向けた。
「待機装者の状態は?」
「結晶化指数が落ち着いてきたので数は戻ってきていますが、それでも以前の8割が限界です」
「準備が出来たものから順次出撃させろ……紅嶺崎はどうだ?」
「全力戦闘は10分が限界との報告が上がっています」
「クソッ!…………これは学生部隊の力も借りねばならないか」
最大戦力のあまりに短い戦闘可能時間に司令は悪態をつき必死に打開策を練るが、根本的に迎撃するための装者の数が十分とは言えないため、あまり取りたくなかった手段を取らざるを得ないことに歯を噛み締める。
「……学園に連絡。学生部隊に待機命令!別命あれば、出撃も有り得ると伝えろ!」
「り、了解!」
「スクランブル部隊で倒せるレベルであればいいのだが……」
僅かな望みをかけるが、それはすぐさま否定されることとなった。
「スクランブル部隊、接敵!……ッ!巨大アビスより高エネルギー反応!」
モニターのアビスがその全身を紅く光らせ、ハリネズミのように光線を打ち出す。周囲で飛行する装者が豆粒に見えるくらいの巨大な身体から放たれた光線は、その1本1本が砲撃型の砲撃の様でスクランブル部隊が苦戦している事が伝わってきた。
「なんて攻撃……」
「呆けるな!ミサイル群発射開始!撃ち尽して構わん!」
「は、はい!」
圧倒的な攻撃力に手が止まった隊員に対して、司令の指示が飛ぶ。無数のミサイルが発射され、巨大アビスに向かって飛翔していく。このミサイルには小型の晶力発生装置が搭載されていて、一応アビスにも有効とはされているがその実、目くらまし程度にしか効力がない。その理由が、モニターに映し出されていた。
「クッ……ミサイルではやはり効果がないか」
扇形に薙ぎ払われた光線に、向かっていたミサイルが撃墜されていく。それでも、少しでも戦っている装者たちの助けになればとミサイルの攻撃を続ける。
「“タケミカヅチ”のチャージは?」
「もう間もなく完了します」
それからも、絶え間なくミサイルは発射され、スクランブル部隊だけでなく後から出撃した装者たちも戦っているが巨大アビスの歩みは止められず、ダメージらしいダメージが与えられている様子は見られなかった。
「“タケミカヅチ”、チャージ完了しました!」
「よし!装者へ射線を空けるように伝達!」
すぐさま装者たちに連絡がされ、“タケミカヅチ”から巨大アビスまで真っすぐな射線が開く。
「“タケミカヅチ”、発射ッ!」
司令の言葉と共に、限界まで収束された砲撃が翡翠色の直線を空に描きながら巨大アビスに直撃した。悲鳴のような軋み音と同時に、アビスの装甲が砕けていく音が聞こえる。“タケミカヅチ”の砲撃が細く途切れると、撒き散らされた装甲の欠片がモニターの視界を塞いだ。
「やったかッ?!」
「視界、回復します!」
「…………そ、んな」
晴れた視界の先に見えたのは、装甲を散らしながらも健在な巨大アビスの姿と、装甲が砕けた事により露わになった、内部に積載されていた無数のアビスの紅いコアの輝きだった。
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