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「朱夏……?」
「え、父さん……なんで?」
先を急ぐ俺たちの前に現れたのは、一人の男性だった。白衣に身を包んだその男性は、となりから聞こえた呟きから朱夏のお父さんだということが分かった。
「朱夏、どこへ行こうとしている?」
「それは……」
バツが悪そうに言いよどむ朱夏。依頼があったとはいえ、学生の身で出撃しようとしている現状を家族に見られるのは、気まずいものだろう。
「一緒にいるのは学園の同級生だな?」
「……そうだよ」
「初めまして、私は朱夏の父です。急ですまないが、どこに行こうとしているか聞いてもいいかな?今日は基地見学だと聞いていたのだが、そんなに急いで行くところはあっただろうか?」
「…………」
俺たちの只ならぬ雰囲気を感じ取ってか、男性の語調が強いものになる。それに言いよどんでいると、男性が悲しそうな表情になった。
「朱夏……、今までが今までだったから信じられないかもしれないが、私は心配しているんだ。基地見学に来ているからと会いに来たら、尋常じゃない表情で走ってくるじゃないか」
「父さん……」
「だから教えてくれ、どこに行こうとしている?」
「…………出撃するんだよ」
「何だって?」
驚きの表情で聞き返してくる男性。
「出撃するの、私達。先輩達が危ない状況だから」
それに対して、朱夏は逸らしていた視線をしっかりと合わせて答えていた。
「いや、しかし……学生だろう?」
「そうだけど、司令からの依頼だから」
「待ってくれ……司令からの依頼?なんだって君たちに……」
「それは俺から説明させて下さい」
混乱している様子の男性に、声を上げた。困惑したままの視線が向けられる。
「君は?」
「俺は朱夏のクラスメイトの、上坂優人と言います」
「君が朱夏の言っていた…………」
朱夏が何を言っていたか気になるところだが、今は置いておこう。今こうして話している時間が長くなればなるほど、先輩達を助けに行く時間が遅くなってしまう。
「今回の出撃は、俺が原因です。前回のアビス侵攻の際に、事情があって俺と妹が出撃しアビスを殲滅したので、今回はその腕を買われ依頼をされています。朱夏達は俺たちのバディなので、今回共に出撃することになりました」
「……本当なのか?」
「本当だよ」
「…………強制されている訳ではないのか?」
「自分の意思で行こうとしてるよ」
「…………そうか」
それだけを呟くと、何かを考え込むように男性が俯く。しかし、すぐに顔を上げると手に持っていた端末を床に置くと、跪いて端末を叩き出した。
「え、と?」
「どうせ、私が何を言っても聞かないのだろう?そう言う目をしていた……冬絵と同じ目だ」
「母さんと?」
「ああ、そうだ。今の朱夏は、出撃前の母さんとソックリだよ」
そう言いながら、男は端末に指を走らせる。
「それで、父さんは急に何をしているの?」
「これか?これは━━━━お前の武装だよ。全く、もう少し落ち着いて渡せるはずだったんだけどな」
「それって……!」
「ああ、そうだ。朱夏が申請していた特殊武装。制作したのは私ともう一人いるが、今作れる最高の物だ。ほら、CADを貸せ!」
男性に言われるままCADを差し出す。チラッと見えた端末では、沢山の画面と文字が表示されていたが、一つだけ印象に残った単語があった。
「アガート、ラーム?」
「そうだ」
俺の呟きに顔を上げず答える男性。その指は尋常じゃないスピードでタイピングされ、表示されていたダウンロードバーが物凄い勢いで進んでいく。
「朱夏が申請していた連結刃。勿論、それを基にして作成しているがそれだけではない。武術なんて物に触れさせてこなかったから、それを補えるような機能を搭載した。多機能複合連結刃“アガートラーム”。詳しい事を説明している時間はないが、なに、殆ど自動で対応してくれる」
「わ、分かった……こんな父さん、初めて見た」
「よし、インストールは完了した。稼働試験なんてしている暇は無かったが、私と彼の力作だ。万が一にも動作不良なんて起こさないさ」
生き生きした表情でそう言う男性に、圧倒されたのか生返事をする朱夏だったが、差し出されたCADをしっかりと受け取る。
「うん、信じてる」
「……行ってこい。そして、必ず帰ってきてくれ」
「うん!行ってきます!」
そう言って駆け出す朱夏に続く俺たち。
「娘を、頼む」
「……はい!」
男性とすれ違う瞬間、掛けられた言葉に駆け抜けながら答え、俺たちはその場を去った。
「冬絵……私達の娘は、知らない間にとても成長していたよ」
そんな男性の呟きは、誰もいない空間に消えていった。
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