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 その日、男は自身に割り振られた仕事を早々に終えると、とあるデータの前で唸っていた。


「主任がそうしてるのって珍しいですね。いつもは淡々と仕事してるのに、一体何を……」


「ああ、君か。丁度いい、君の意見も聞かせてくれ」


 そう言って男が差し出してきた端末に表示されていたのは、連結刃の設計案だった。男に次ぐ技術を持つ青年は、その設計案がいつも以上に綿密に作り込まれていることを一目見ただけで察した。


「今まで先送りにしてきた娘さんの武装ですか。そう言えば、前に話してましたね」


「そうだ。折角だから最高の物を送りたいと思うのだが、如何せん私はこういった先進的な物に弱いみたいでな。いまいち納得できるものにならないのだよ」


「ちょっと見せて下さい」


 男から端末を受け取り内容に目を通すと、確かにスッキリとしない。何というか、ただちょっと伸びる剣といった感じで、“ロマンを感じない”。


「……主任でも、苦手な武装設計があったんですね」


「古い人間だということは自覚している。だから君を頼っているんじゃないか」


「そう言われるとやる気が出ますね!ちょっと僕も考えてみます」


 データをコピーして自分の端末に取り込むと、青年は自分の席で画面を見つめる。脳裏に浮かぶのは、幼少期に見てきた数々のアニメたちだ。そこでは、多くの登場人物たちが沢山のロマン武器を使って戦闘を行っていた。


 連結刃だってその一つだ。連結刃の特徴は、近づけば剣で、離れれば鞭のように薙ぎ払い、変幻自在な攻撃で相手を翻弄するといったところだ。思い浮かべただけで何ともロマンを感じるが、実際に扱うとなると問題点も多い。


 特に、現実としてアニメの様に無限にも伸びるような構造を再現するのが難しい。強度なんてものは、万能元素である晶気を使えばどうとでも……


「あ、そうか」


 折角の閃きを逃さないように、すぐさまキーボードを叩き始める。伸ばすのに限界があるのなら、“作り出し続ければいい”。そんな無茶苦茶な考えだったが、不思議とそれが最適解だと思えた。


 CADで展開した銃の弾だって、装者の晶力によって作り出され続けてリロード要らずな設計なのだから、剣が作り出し続けられない道理はない……いや、なくす!あっという間に概要を書き上げた青年は、それを男に見せる。


「…………なるほど。言われてみれば君の言う通りだ。ところで、私もこんなものを考えてみたのだが……」


 男が見せた画面に、青年の目が輝く。技術者は、多かれ少なかれ少年の心を持つと言われるが、今ここにいる二人は正に少年の様であった。武装開発・整備部門のトップ二人が総力を結集して作られたその武装は、多くのロマンが詰め込まれたものになった。気づけば、かなりの時間が経過していて、集中力が途切れたせいか疲労を感じるが、二人にとってそれは心地の良いものだった。


「主任……僕は今、とても満足しています」


「奇遇だな、私もだ。久しぶりに熱くなったよ」


 細かな調整をした後、以前と比べれば随分と早い時間ではあるが、娘との夕食に遅れないように男は荷物をまとめる。


「あ、主任!知っているとは思いますが、明日は学園の新入生たちが防衛基地の見学に来る日ですよ」


「もちろん、把握しているが?」


 青年の意図を察せず怪訝そうな顔をする男に、青年は深いため息をつく。


「だから、娘さんも来るんですよ。折角なんで、その時にこのデータ(・・・・・)、渡しちゃいません?」


「む……しかし、それは……大丈夫なのか?その、規則的なところは?」


「大丈夫ですよ!仲直りしたんですから、データだけ送るより直に渡せた方がいいでしょう?」


「それは、その通りだと思うが……」


「もう、そう言う煮え切らないところですよ?全く、奥さんがいた時はもう少しまともだったのに」


「い、今は関係の無い事だろう?」


 男の態度に段々と我慢ならなくなってきた青年は、男の急所ともいえる亡き妻の話を持ち出した。青年の言葉に自覚がある分、反論の声は苦しいものだ。


「いいえ!そうやってウジウジしてるから、3年近く娘さんとの関係を拗らせるんですよ。反論があるなら、ビシッと明日渡してきて下さい!もちろん、サプライズですから今日渡しちゃあダメですよ」


「……全く、君の強引さには根負けしたよ。分かった、そうしようじゃないか」


 苦笑を浮かべながら、男が頷く。その姿に青年は満足そうな笑みを浮かべた。


「それでは、そうと決まれば早く帰ってあげて下さい。折角のプレゼントも、前日に喧嘩したんじゃ嬉しくないですからね」


「そうさせてもらうよ」


 そう言うと、青年の見送りを受けて男は娘の待つ家へ帰っていった。


 次の日、男がプレゼントを携えて娘の居る基地を訪れた時に、思いもしない出会い方をすることを、この時には誰も想像することが出来なかった。


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