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時は遡り、3年生たちが出撃の準備をしているところまで戻る。整列した3年生の前には、引率担当の正規装者が立っていた。
「今日、皆さんの実践訓練を担当する皆城凛です」
「同じく、櫛名優です」
二人の装者に続いて、私達も挨拶をする。
「伊波愛佳です~。よろしくお願いします」
「逢坂由紀です。お願いします!」
愛佳はいつもとあまり変わらず、由紀は少し緊張した面持ちだ。
「事前に提示した行程表の通り、今日は天岩戸の向こう側、人類の生存圏外での哨戒任務となる。基本的に戦闘は行わない予定だが、アビスとの遭遇戦は十分にあり得る。その際、学生諸君は退避し戦闘には参加しないようにしてほしい」
そうやって、注意事項が一つずつ告げられていく。それに改めて、自分たちが危険な場所に行く事を自覚した3年生たちの表情が硬くなる。それに気づいた皆城たちは内心、安心すると共に、自分たちの初陣を思い出して笑みを零していた。
無駄に自信過剰な装者が、命令を無視してアビスに突撃し、消滅したなんて話は枚挙にいとまがない。それと比べれば、目の前の学生みたいに不安で少し硬くなっているくらいが丁度いい。対アビス防衛部隊としても初めての試みで身構えていたが、学園側も優秀な学生を最初に派遣してくれた様だ。
「不安も大きいと思うが、私も櫛名もスクランブル隊を経験している装者なので、最低限君たちの安全は保障する」
その言葉に、完全に安心した訳ではないだろうが、少し力が抜けたように見える。注意事項と事前の確認が終わると、早速出撃だ。場所を移動していると、ちょうど基地見学に来た新入生たちが遠目に見えた。知り合いがいたのか、3年生の二人が手を振っている。隊員がそんな事をやっていたら叱り飛ばすところだが、まだ学生だ。それに、知り合いと会えたことでその二人の緊張が解れたように見えるので、これくらいは目を瞑ろう。
「それでは、ここから出撃する。隊列は私を先頭に、学生はバディと2列縦隊、最後尾に櫛名とする。また、これより返答は基本的に“了解”で統一する。いいか?」
「了解!」
「よし!では、各自CADを展開しろ」
それを合図に、翡翠色の光が辺りに満ちる。私と櫛名もCADを起動して、浮遊状態となった。学生達も問題なくCADの展開を済ませて、こちらの指示を待っている。
「よろしい。では、出撃!」
そうして、初となる実戦訓練が幕を上げた。
実戦訓練の行程前半は何事もなく進んだ。アビスとも遭遇することなく、外の世界に多少学生がざわついたが、それぐらいだった。今は折り返し地点で、元来たルートと楕円を描くように戻っていく予定だ。
「では、これから反転し基地へ戻っていく。しかし、だからといって気を抜くことはないように。ここは人類の勢力圏ではないのだからな」
「了解!」
出撃時よりも元気のある声が返ってくる。学生に言った手前、自分も気を引き締め直して移動を開始するが、その時だった。視線の遥か先に何か動いたように思えた。レーダーを確認するが、何も反応はない。自分の思い違いかと疑りつつ、よく目を凝らす。そして、ソレらに気付いた。
「ッ!総員、直ちに停止!」
急停止したことで、隊列が乱れる。
「皆城、どうしました?」
「櫛名、アビスだ。それも10体以上いる」
学生達を混乱させないように、小声で櫛名と通信でやり取りするが、只ならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。学生達が不安そうに私を見ている。
「ッ!それは、じゃあ……」
「ああ。直ちに訓練は中止。大至急、基地に連絡を……」
「み、皆城さん……アレって…………」
そんな中、学生の一人がアビスに気付いてしまった。同時に、アビス側もこちらを補足したのか、明らかにこちらに向かってきている。
「チッ、気付かれたか!」
学生たちも完全に気づいてしまった。初めて本物のアビスを見たのだろう、落ち着きをなくしつつある者さえいた。
「学生は速やかに退避!櫛名、本部に連絡し応援を要請!」
「でも、あんなに数がいて……基本型だけなら私達も援護を……」
「不要だ。君たちの任務は戦う事ではない。生きて、帰る事だ。それに、我々とは練度が違う。足手まといになるだけだ」
「そんなこと言わなくても……」
「私達は君たちの命を預かっている。故に、厳しいと思われる事でも言おう。大人しく、退避しろ!」
「………ッ、了解」
まだ何か言いたげだったが、それでもこちらの言い分も理解出来たのか引き下がる。そうこうしている内に、アビスの攻撃が飛んできた。学生を守るために、それを前に出てシールドで受ける。次々と飛んでくる攻撃を櫛名と二人で防ぐが、如何せん数が多いために受けきれない。防げなかった数発が、学生のシールドに当たる。
「きゃあああああああああッ!!」
攻撃の当たった学生がパニックに陥る。
「そいつを連れて退避しろ、早く!」
「り、了解!」
ようやく動き出した学生だったが、アビスの攻撃が始まったせいか、パニックになっている学生の存在もあり、その動きは遅々としたものだった。通常であれば、アビスの中に突撃し、近接戦闘を仕掛けるのだが近くに他のアビスがいないとも限らないため、学生から離れる訳にもいかず後手に回ってしまっていた。
「クッ……数が多い!何でこんなにいるのに本部は気付けなかったんだ?」
その答えは、すぐに表れた。基本型のアビスの後方、先日基地内で周知された新型と同じ姿をしたアビスが2体、そこにはいた。
「奴の所為か!……櫛名!本部の返答はまだか?!」
「それが……スクランブル部隊が別件で出動しているから、すぐに送れる戦力がないって」
「……当分、このままか」
目の前にはアビス、後ろには守るべき学生達。最悪、自分たちが犠牲になろうとも、彼らを無事に帰さなければならない。
「櫛名、覚悟は決めておいて」
「……皆城こそ」
私達は装者。人類の防人だ。護るために死ぬ覚悟は、既に出来ている!両手に突撃銃を展開した私達は、学生を守るためにその引き金を引いた。
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