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「おっはよー!」


「おお!今日はなんかいつにも増して元気やな」


 翌日、ホームルームが始まるギリギリに教室へ入ってきた朱夏は、晴れやかな表情でいつも以上の元気さを振りまいていた。


「そうなんだよ!いやー、ご心配おかけしました」


「悩みごとが解決してよかったです。兄さんとも仲直り出来たみたいですし」


 ここ数日あった俺と朱夏の間にあった空気が霧散していることに、敏い二人は気付いたみたいだ。まあ、仲たがいをしていたというより、気まずかっただけなんだけど、改めて指摘する必要はないだろう。


「優人にも迷惑かけちゃってごめんね!」


「いや、俺の方こそ」


 改めてそう言ってくる朱夏だが、視線だけで感謝の念も伝わってきた。そうやって話していると、時間も時間だったので先生が入ってくる。慌てて席につき、今日の授業が始まった。






 放課後、木曜日という事もあったので、俺と麻衣は幽霊部員になりつつあった料理部の部室を訪れていた。


「あれ?先輩方、明日は実戦訓練なんじゃないんですか?」


「優人くんと麻衣ちゃんか……まあ、そうなんだけどね」


「なんかね~、料理してた方が落ち着くというか~、直前に変に力を入れても空回りしそうで~」


「そうなんだよね。私達以外の班員は、ギリギリまでシミュレーターで調整するって残ってたけど」


 二人とも、いつも通りの雰囲気で逆にこちらが心配になってしまいそうだが、この落ち着き様が先輩達の強みでもあるのかもしれない。料理はストレス解消や集中力向上に良いとも言われているし。先輩達が作っていたのは、ガトーショコラだった。砕き始めのチョコレートの甘い香りに、頬が緩む。

 

「俺たちにもやらせて下さい!」


「私もいいですか?」


「もちろん!君たちも部員なんだから、それに男手があると嬉しいこともあるし」


 そう言って由紀先輩に差し出されたのは、ボールと泡だて器だった。


「が、頑張ります!」


 それから、湯煎したチョコレートと俺が息も絶え絶えになって泡立てたメレンゲたちを混ぜてオーブンに投入する。あとは30分もすれば完成だ。


「そういえば、実戦訓練の詳細って出たんですか?」


「出てるよ。天岩戸よりも外の領域で、あらかじめ決められたコースを回るんだ。行程表とかも出てるし、ベテランの装者もいるから心配はいらないと先生には説明されたよ」


 そう言いながら苦笑を浮かべる。明らかに先生の説明に納得がいっていない表情だ。


「最近は何故かアビスが活性化してるみたいだからね~。来年には正式な装者になるって分かってるけど、やっぱり実戦ってなると緊張するよね~」


 その言葉に、先日のアビスとの戦闘を思い出す。あの時は夢中だったから何も思わなかったけど、改めて落ち着いた状態で考えると無謀な事をしたもんだと思う。そこからは、段々と話が横へ逸れていき、学校のことだけでなくプライベートに関してまで話が広がった。


「えー!麻衣ちゃん達って二人暮らしなんだ。ご飯も毎日自炊って偉いね~」


「あの、愛佳先輩……」


「い~こ、い~こ~」


 愛佳先輩がニコニコしながら麻衣の頭を撫でていた。恥ずかしそうにしながらも、振り払う訳にもいかず頬を赤らめながら抗議の声を上げている。


「優人くん、ジッと見てどうし……あ、羨ましくなった?」


「違います」


「冗談だって」


 麻衣の可愛い姿を見ていたら、由紀先輩がニヤニヤしながら言ってくる。口ではああ言っているが、確実に揶揄おうとしていた。ひとしきり撫でて満足したのか、解放された麻衣が俺の近くに寄ってくる。愛佳先輩の近くにいたら、いつまた撫でまわされるか分からないからな。


「さて、そろそろ焼けたでしょう」


 そう言ってオーブンから出されたガトーショコラは、しっとりとしていてとても幸せな味がした。俺たちはそれを食べ終えると、お互い明日が大変だということで、解散となった。






 対アビス防衛部隊(ADF)の防衛基地内。そこでは、隊員たちが学生を迎えるための準備を進めていた。ついこの間にアビスの侵攻があったため、入念なチェックのもと、それらは行われていた。


「……あれ?見間違いかな?」


 そんな中、とあるオペレーターが一瞬レーダーにアビスの反応を見た気がしたが、それはほんの瞬きをする間に消えていた。再び、映ることは無かった。


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